沖縄21世紀ビジョン基本計画(案)に対する意見(RC研)

2011年12月19日/ パブコメ

沖縄21世紀ビジョン基本計画(案)に対する意見、こちらは、沖縄リーフチェック研究会会長安部真理子さんからの意見です。
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沖縄県環境生活部 自然保護課長御中                       2011年12月8日
沖縄県企画部企画調整課御中                      

                                       沖縄リーフチェック研究会 会長
                                       安部 真理子
                                      
沖縄21世紀ビジョン基本計画(仮称)(案)及び基本プロジェクト(案)に対する意見書


沖縄県において自然保護活動を推進してきたNGOの立場から、沖縄21世紀ビジョン基本計画(仮称)(案)に述べられた計画について、日本の南部にのみ分布するサンゴ礁で成り立っている沖縄県には特に自然を大切にして欲しいと考え、その立場から意見を述べたいと思います。

1.現在ある自然をそのまま保全することの重要性
  p123の環境共生型社会の部分等に記されている事柄を見ますと、オニヒトデの駆除やマングー等の外来種の駆除に注目されているような印象を受けます。マングースの駆除は必要ですが、第2、第3のマングースとなる生物が出てこないよう十分な対策を取ることが必要です。また「再生」という言葉も多々使用されていますが、一度壊してしまった自然を「再生」するには長い時間が必要ですから、例えばサンゴの移植などの方法で真の意味で自然が再生することはないと考え、今ある自然を可能な限り壊さないようにすることが大切であることを認識いただきたいと思います。特にサンゴの移植については、日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会(2008)にも「サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか、またどのようにすれば寄与できるのか、十分に検討されているわけでない」と見解が示されている通り、移植技術は未確立の段階であり、まだ「強化する」と記載できるほどの状態にはないことを認識いただきたく思います。

(1)根本的な原因を取り除くこと
海への影響が大きい生活排水や赤土流入に関して書きます。下水道施設は出来ているものの、下水道施設に接続する部分の費用は個人負担であるため多くの家庭や施設が未接続の状態であり、処理しない汚水がそのまま海に流れ出ていること(鹿熊信一郎、平成23年度環境省サンゴ礁生態系保全行動計画フォローアップ会議第1回にて)、農地に対する赤土対策にかかる費用が個人負担となっているため有効な赤土対策が取れないことに目を向け有効な対策を取っていただきたいと思います。必要性については本計画の中にも記述はありますが、現実をしっかり見て、実現できていない理由を分析し、それに対応できるよう具体的に対処していく必要があります。
オニヒトデの駆除は現在の沖縄の状況では必要ですが、Fabricius et al.(2010)が示すよう、大量発生の原因は生活排水等による水質悪化ですから、根本となる原因を取り除く必要があります。下水道設備の充実や赤土対策こそがオニヒトデ対策とつながることを認識いただきたく思います。

(2)これ以上の直接の自然の破壊を避けること
例えばp121に「リゾート拠点の形成」について触れられている部分があり、「北部西海岸は美しい自然海岸とリゾートホテルを有する」と記されていますが、リゾートホテルの多くはその美しい自然海岸を壊し、その犠牲の上に建設されたものが多く、現在でも施設からの排水等で周辺海域の環境を劣化させる原因となっています。観光業を推進することは大切ですが、この現実を受け止め、リゾートホテルのこれ以上の建設を進める方向ではなく既存の施設をより効率的に用いる等、何らかの工夫が必要です。その工夫について具体的に検討されると良いと思います。
港湾や空港の整備について触れられている部分もありますが、リゾートホテルの件と同様に、
まずは既存の施設をフルに活用できているかその検討が必要です。そのうえでどうしても必要だと
思う施設のみ建設するようにお願いいたします。1の(1)とも関連しますが、沖縄島北部のやんばるの森の林道建設についても同様で、既存の林道で対処できない場合にのみ作るように転換していかない限りは、赤土が海に流入しサンゴが減少しオニヒトデが増えるという構図は変わらないことでしょう。
「どうしても自然を犠牲にしてまでも工事をしなければならない」という状況は生じうることと思いますが、その際には「自然環境を犠牲にして工事をする」ことを認識すべき(土屋、2004)であると思います。

(3)護岸等について
  p42に大規模な自然災害の発生を想定した防災体制についての記述がありますが、東日本大震災の経験からも、現在沖縄に存在する、あるいは建設中の護岸の有効性に関しては疑わしいことが伺えます。高潮等対策になっているであろうという間違った根拠のもとにどれだけの沿岸自然環境が失われたか、失われつつあるか、目を向けることが大切です。(2)と同様にこれ以上の自然の破壊は可能な限り避けるようお願いいたします。

(4)米軍基地由来の化学物質
今年8月に枯葉剤が米軍基地内で使用されていたことが明らかになりました(琉球新報 8月
14日)。また沖縄島周辺でPOPs 、CHLs(クロルデン)、DDTs等の有害物質による魚介類の汚染が顕著に高かったという報告(WWFジャパン、2008)もあり、これらは米軍基地にて使用されている化学物質が沖縄の自然環境の健全性とは無関係ではないことを示しています。化学物質の過去の使用実績を含めた調査・検討を進めていかない限り、米軍基地跡地の利用を安全に実施できることはないと思われます。

(5)観光客による自然の過剰利用による自然破壊の恐れ
観光客の数を増加させれば観光客による過剰利用が問題となってくるのは明白であり、エコツア
ーやグリーンツーリズムという言葉の定義もせぬまま導入することは大変危険です。自然を壊さぬまま収容可能な観光客の人数を割り出し、また自然環境の利用の形態についても十分に検討する必要があります。

2.県民とよく話し合い具体的なビジョンを作成すること
生物多様性地域戦略の策定過程や環境影響評価審査会等の様子を拝見していると十分に県が県民とコミュニケーションが取れているとは到底思えません。県民とよく話し合い、合意のうえ目標を定めるようにしていくと良いと思います。


3.法律の整備や米軍・防衛省との話し合い
  1の(2)に記したような自然環境の直接の破壊が最も起こりやすいのは環境影響評価法や県の
環境アセスメント条例がうまく機能していないケースが多々あることに目を向けていただきたく思います。「開発工事の計画が策定されたならば自然環境に最大限配慮して計画を進めることは当然のことであり、またその実行までに、あるいは実行の途上において自然環境に対する配慮の面で大きな問題が生じた場合、計画の回避、断念を含めて真摯に検討する態度を持ちたい」(土屋、2004)という姿勢が取れていない現状に目を向けてください。
本計画全般に記されたことは概ね良いことだと思われますが、具体的にどのように進めていくか
その方法についての記載が欠けています。
 米軍基地問題に対処していくには米軍や防衛省との話し合いの場面も必須です。まだ計画(案)の段階とはいえ、どのようにすれば根本の原因を取り除くことができるのか、検討しておくことは大切です。やんばる地域の保全を例にとっても国立公園化や外来種対策という着手しやすい部分だけではなく、本質的にどのようにすれば良いのか準備が大切です。

終わりに  
  世界中のサンゴ礁で、人間活動の影響によるサンゴ群集の復元力の低下ということが問題とされています(e.g., Bellwood et al., 2004)。またサンゴ礁の経済的価値ということが大きく注目されています(例:「サンゴ礁学」)。サンゴ礁から成り立っている島々である沖縄では、海から陸まで含む広い意味でのサンゴ礁生態系(海草藻場、干潟、砂地、泥地、マングローブ等の生態系が微妙なバランスを取りつつ現状を維持している)を今まで以上の努力を投入し可能な限り保全していくことが大切です。他の県や他国にはない自然を保全していくことこそが、多くの人をひきつける魅力になると思われます。沖縄の自然は沖縄県に住む人間だけのものではなく、他国から飛んでくる渡り鳥など多様な生物を支えている重要な宝であることを認識し、保全と利用のバランスを上手にとっていくことを願います。


引用文献:
1)日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会(2008).「造礁サンゴ移植の現状と課題」.日本サンゴ礁学会会誌第10巻、73-84.
2)Three lines of evidence to link outbreaks of the crown-of-thorns seastar Acanthaster planci to the release of larval food limitation K. E. Fabricius • K. Okaji • G. De’ath,Coral Reefs 
3)土屋誠(2004)「 地質調査・海象調査の作業計画および同参考資料に対するコメント」沖縄県文化環境部
4)琉球新報 2011年8月14日 「枯れ葉剤 北谷に埋めた」 元米軍人証言
5)WWFジャパン(2008)「WWF ジャパン・プロジェクト報告書南西諸島における野生生物の有害化学物質調査(’05~’07)」。WWFジャパン発行。
6)琉球新報 2011年8月14日 「枯れ葉剤 北谷に埋めた」 元米軍人証言
7) 「サンゴ礁学 未知なる世界への招待」(2011)日本サンゴ礁学会編。東海大学出版会発行。
8) Bellwood DR, Hughes TP, Folke C, Nystrom M (2004) Confronting the coral reef crisis. Nature 429:827-833.
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沖縄21世紀ビジョン基本計画(案)に対する意見(RC研)
いつもありがとうございます!

「沖縄21世紀ビジョン基本計画(案)に対する意見沖縄リーフチェック研究会会長安部真理子」
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Posted by 沖縄BD at 17:12│Comments(0)
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