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ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書

2016年04月25日/ 沖縄防衛局/ 環境監視等委員会/ 辺野古・大浦湾

以前に掲載した「事後報告書あいびたんどー(ありました)」の続きです(前の記事はこちらから)。赤嶺政賢衆議院議員の事務所の働きで開示されたた『シュワブ(H25)水域生物等調査 報告書』。3月18日には沖縄防衛局のHPで掲載されるようになりました(同報告書はこちらから)。

今回は同報告書を通して改めて明確になったジュゴンの問題に焦点を当てます。そしてその問題について4月21日に日本自然保護協会と一緒に行った沖縄防衛局との交渉、そして22日にSDCCで行った防衛省交渉の内容を踏まえて書いていこうと思います。交渉での重要なポイントは、沖縄タイムスと琉球新報でも取り上げてもらいました。ありがとうございました(タイムスの記事はこちら。新報の記事はこちら)。さて論点は4点あるのですが、まずは「シュワブ(H25)報告書」の内容についての2点から。以下示す図や表はすべて沖縄防衛局の環境アセスや事後調査の評価書や報告書から抜粋したものです。

***訂正:4月27日にこの記事を掲載して以来『シュワブ(H27)水域生物等調査 報告書』(シュワブ(H27)報告書)と記述してきましたが、正しくは『シュワブ(H25)水域生物等調査 報告書』です。4月29日以下「シュワブ(H25)報告書」として記述し直しています。混乱の理由は、調査に関する年度表記が、調査の実施はH26年度(2014年度)、報告書があがったのがH27年3月であること(同報告書でも平成27年3月と記載)、報告書のタイトルは『シュワブ(H25)』となっていることでした。

1. 基地建設予定地で確認されたジュゴンの食跡と沖縄防衛局/防衛省の見解について
77本の食跡

沖縄防衛局の「シュワブ(H25)報告書」では、2014年4月から7月までに合計77本の食跡が辺野古崎大浦湾側の基地建設予定地で確認されたことが報告されています。4月に13本、5月に28本、6月にも28本、そして7月に8本の確認です。これら多くの食跡の確認は、日本自然保護協会とチームザンが同時期に同海域で行った調査の結果を明確に支持するものであり、基地建設予定地がジュゴンにとって重要な餌場であることを改めて示してくれたといえます。(日本自然保護協会の2014年度の報告はこちらから)。





一方防衛局が2014年7月にボーリング調査を着手した以降、7月の8本の確認を最後に、8月以降の調査では同調査海域でのジュゴンの食跡は確認されなくなくなっています。ボーリング調査のジュゴンへの影響が懸念されます。

沖縄防衛局/防衛省の見解
今回の交渉で私たちが沖縄防衛局と防衛省に求めたのは、1) 77本という食跡の数値についての見解と、2) ボーリング調査着手以降に食跡が確認されなくなった事実についての見解でした。

しかし沖縄防衛局も本庁の防衛省も、明確な見解を示しませんでした。ただ防衛局が環境アセスで示した「ジュゴンは嘉陽の海草藻場は餌場として使っている、しかし辺野古は使っていない、という見解に変わりない」「調査結果に基づいて可能な限りの保全対策を講じていく」と繰り返していました。

その回答を受けて私たちは、以下の沖縄防衛局のデータを示して、さらに二つの質問を沖縄防衛局に投げかけました(防衛省ではこのやり取りはありません)。
1) 環境アセスの現地調査の際(2008年3月〜2009年2月)に沖縄防衛局が嘉陽において確認した食跡の数は、下の表が示すように、最大で一月「38カ所」であり、最小は一月「6カ所」であった。今回「シュワブ(H25)報告書」で示された建設予定地における食跡の数は最大で一月「28本」であり、これは嘉陽の数値と比較してみても少ないとはいえないのではないか。これらの数値を防衛局はどう考えるのか。


*環境アセス調査の開始である2008年3月の調査は上の表では第9回調査にあたり、2009年2月の調査が第20回にあたる。

2) 辺野古海域(大浦湾側を含む)における食跡の調査は、沖縄防衛局、環境省、NGOが10年ほどのスパンで行ってきているが、「辺野古海域」で食跡が確認されていないのは、基本的には沖縄防衛局が環境アセスの現地調査を行った年度とその前後の予備/事後調査の年度である。この状況を沖縄防衛局はどう考えるのか。アセスの調査結果をもって「辺野古が使われていない」とはいえないのではないか。



*沖縄防衛局の事後調査では、2012年度、2013年度、2014年度にも辺野古海域でジュゴンの食後は確認されている。日本自然保護協が作成した2004年から2013年までの辺野古・大浦湾海域でのジュゴンの食跡の表はこちらから

これらの質問に対して、沖縄防衛局も防衛省も結局は、「ジュゴンは嘉陽の海草藻場を餌場として使っているが、辺野古は使っていない、という見解に変わりない」「調査結果に基づいて保全対策を講じていく」と繰り返すばかりでした。

勿論、対応して頂いた防衛局や防衛省の職員は「専門家」「科学者」でもなく、これまでの政府の見解を繰り返す以外の対応はできなかったと思います。ただ沖縄防衛局や防衛省が今後やらなければならないことは明確です。それは、1) 従来の「辺野古は使っていない」という見解を妥当だとする沖縄防衛局や防衛省の専門家に説明責任を果させること、2) 環境保全の助言を行う「環境監視等委員会」にきちんと「シュワブ(H25)報告書」を提示し、それに基づいて真摯な議論をさせることです。私たちも沖縄防衛局と防衛省に対してそのように求めました。しかし後で詳しく書きますが、沖縄防衛局は「シュワブ(H25)報告書」ができて約1年の間、環境監視等委員会に対して同報告書を提示していません。今後、環境監視等委員会がどのように同報告書を検証し、対応するのかが注目されます。

2. 大浦湾はどこへいった?
基地建設予定地である辺野古・大浦湾でジュゴンが生息することを認めたくない沖縄防衛局や防衛省。そのために講じてきた沖縄防衛局の手法の一つが、調査結果を報告書にまとめる段階での海域の分類の操作処理です。この手法については、2009年に「辺野古沖からジュゴンが消えた!?」というタイトルで新聞で取り上げてもらい、また山内徳信参議会議員に国会でも追求してもらいました(山内徳信議員と防衛省のやりとりはこちらから)。これは、環境省の調査で、宜野座沖から辺野古沖へ移動し、辺野古沖で回遊していたジュゴンを、沖縄防衛局がアセスの準備書のなかで「宜野座沖」のジュゴンとして分類し、「辺野古沖からジュゴンを消した」問題です。

シュワブ(H25)報告書
今回の「シュワブ(H25)報告書」でも似たような手法が使われていると思います。なぜなら、防衛局はジュゴンの目視確認調査の結果を表や概要でまとめるにあたり、大浦湾で確認されたジュゴンをすべて「嘉陽海域」で確認されたと分類しているからです。

例えば下の図で示されている2014年5月21日に確認されたジュゴンの扱いです。図で分かるように、一頭は「嘉陽海域」で確認され、もう一頭は大浦湾で確認されています。図の説明表記も「嘉陽海域」「大浦湾」となっています。




しかしこれが下の表になると、確認海域は2頭とも「嘉陽海域」で確認されたとまとめられています。




ちなみに「シュワブ(H25)報告書」における確認海域には、「大浦湾」という海域分類は存在しません。あるのは「嘉陽海域」と「古宇利島海域」だけです。

環境アセス評価書でもそうだった、、。
この分類の問題は、環境アセスの「評価書」に遡ってもみることができます。例えば、2008年9月10日の環境アセスの現地調査で、大浦湾のど真ん中で確認されたジュゴン。これは評価書の以下の図でも「嘉陽沖」で確認されたジュゴンとして扱われています。



そして「評価書」の数年に渡るジュゴンの確認表でも「嘉陽沖」のジュゴンと扱われています。ちなみにこの表でも大浦湾はありません。あるのは、「嘉陽沖」「辺野古沖」「金武湾〜宜野座沖」「古宇利島沖」「その他の海域」だけです。




大浦湾を嘉陽海域に含めてまとめると、確かに「ジュゴンは嘉陽海域を利用している、辺野古はあまり利用していない」という主張がやり易くなるのかもしれません。しかし大浦湾と嘉陽海域は別のものとして分類され、分析されるべきです。

沖縄防衛局/防衛省の対応
さて今回の沖縄防衛局と防衛省の交渉では、1)なぜこのような海域の分類になるのか。大浦湾と嘉陽海域は違うのではないか。2)このような分類を用いて、ジュゴンが辺野古を使っていないとする議論は問題ではないか、という質問を投げました。

防衛局は、アセスの評価書や補正評価書、シュワブ(H25)報告書を含む事後調査の報告書でも、「図では大浦湾も示している」「細かい記述では大浦湾と書いている」と回答していました。しかし、なぜ大浦湾を嘉陽海域に含めるのかということについては、防衛局も防衛省も何も答えられませんでした。というか、困っていたと思います。

今回対応して頂いた防衛局や防衛省の職員が、海域の分類について見解を述べることができなかったのはしょうがないと思います。科学的かつ論理的根拠が見つけにくい分類の仕方だからです。今後、防衛局と防衛省は、1) 環境アセスの評価書/補正評価書や事後調査の報告書において、大浦湾で確認されたジュゴンはすべて大浦湾での確認と分類し直すこと、2) その海域の分類に基づいて、基地建設のジュゴンへの影響を評価すること、3) そしてそれをきちんと環境監視等委員会や米軍に報告して議論してもらうことが必要です。私たちも防衛局と防衛省に対してそのように求めました。

沖縄防衛局の環境アセスや事後調査の報告書において、まとめの表や海域分類から消えた「大浦湾」。もしそれが許されるならば、「大浦湾わんさかパーク」という地域施設の名称や、「大浦湾生き物マップ」というブックレットのタイトルも、「嘉陽海域わんさかパーク」や「嘉陽海域いきものマップ」に変えないといけないのではないか、と突っ込みたくなるのは私だけではないでしょう。

ひとまずここまで。
H.Y.



  

Posted by 沖縄BD at 19:32Comments(0)

事後調査報告書あいびたんどー(ありました)!台風の影響、ジュゴンのことなど1

2016年03月05日/ 辺野古/ 環境監視等委員会/ 辺野古・大浦湾

前回のブログでは、2014年の事後調査の報告書が開示されたこと、そしてその開示の過程で見えてきた問題点を3点書きました。開示してもらった報告書は本編717ページあり、内容についてはまだまだ検証できていませんが、この時点で気付いたことを何回かに分けて書いてみます。ジュゴン関連で書いていくつもりですが、どうしても気になった部分があるのでまずはこれから。


          シュワブ(H26)水域生物等調査 報告書 P455


台風の影響についての報告
毎年台風を経験する沖縄での水域生物調査で、台風の影響を考慮することは大切です。沖縄防衛局の事後調査の報告書でも台風の影響についての記述があります。

前回出されている「シュワブ(H24)水域生物等調査 報告書」では、2013年10月に沖縄に接近、通過した台風25、26、27号のサンゴへの影響について「大型台風通過後のサンゴ類の撹乱状況」として記述があります。調査対象の「全ての地点において、台風通過後にわずかな損傷(全体被度の1%未満)がみられた」となっています(「シュワブ(H24)」におけるサンゴへの台風の影響の記述はこちらから)。

今回開示された「シュワブ(H26)水域生物等調査 報告書」では、2014年10月に沖縄を通過した台風18、19号による、サンゴと海草藻場両方への影響について言及されています。

サンゴについての記述は、大浦湾口部の群集で「損傷したサンゴの被度は周辺全体の5%未満であった」大浦湾東部のアオサンゴ群落では「影響を受けたサンゴの被度は周辺全体破度の1%未満であった」等です。


           シュワブ(H26)水域生物等調査 報告書 P457

一方海草藻場については「調査の結果、辺野古リーフ内で台風の影響はみられなかった」です。(P492)

台風で移動したアンカーの影響は?
しかし2014年10月に問題となった、台風によるアンカーやワイヤー(ボーリング調査のためのブイやフロート設置のために使用)の移動や、その移動によるサンゴへの損傷については全く触れていません(琉球新報の記事はこちら。その後の展開については沖縄BDのブログ記事はこちら)。市民団体によりアンカーによるサンゴの破損が発覚したのは10月15日と17日。沖縄防衛局がサンゴへの台風による影響の調査をした日は10月18日。アンカーやワイヤーからのサンゴへの影響の可能性を考えて、その時点でなぜ調査しなかったのか。それとも行っているのに報告していないのか。疑問が残ります。

興味深いことに、海草藻場へのアンカー痕跡については、10月から11月にかけて調査され、以下のように報告されています。しかしここでは、なぜか、台風とアンカーの移動の関係については明確には触れられていません。

            シュワブ(H26)水域生物等調査 報告書 P488

(台風で)アンカーが移動することより海草藻場に与えた影響は調査して、サンゴについては調査していない。調査の一貫性や統合性に疑問がでてきます。それはなぜなのか(知事からの岩礁破砕許可と直接関係するので、サンゴやサンゴ礁については調査しなかったのか等、憶測が、、、)。

保全措置のためという事後調査の目的を見失ってはいないか。その目的に適った調査実態になっているのか。今回開示された報告書のこの部分は、事後調査全体を問い直す材料になっていると考えます。
  

Posted by 沖縄BD at 11:44Comments(0)

事後調査報告書が出てきたよ!!!

2016年03月04日/ 沖縄防衛局/ 辺野古/ 環境監視等委員会/ 辺野古・大浦湾

「和解受け入れ」と事後調査の報告書
辺野古新基地建設を巡り沖縄県と日本政府が裁判で争っていますが、本日裁判所が提示した「和解案(暫定案)」に国と県が応じるとのニュースがありました(毎日新聞のリンクはこちら沖縄タイムスのリンクはこちら琉球新報のリンクはこちら)

今後国は工事を中断し、国と県が協議のテーブルにつくことになります。国はあくまで辺野古新基地建設を固持していますが、翁長知事も建設反対の立場を貫いていくとしています。和解受け入れに関しては様々な見解があると思います。しかし現場で抗議行動をしてきた人々が少しでも休めることは本当に良かったと思います。私たち環境NGOも、この機会を利用して、この無謀な新基地建設がもたらす環境問題を国内外にしっかり訴えていきます。


「シュワブ(H25) 水域生物等調査 報告書」のファイルで画面がうまっているMacBook

さて前回のブログで、2014年に行われた事後調査の水域生物調査の報告書が未だに出てきていないこと書きました。その後すぐに、赤嶺政賢国会議員の事務所に協力をお願いして、防衛省へ報告書の提出を求めてもらいました。その結果「シュワブ(H25)水域生物等調査 報告書」という2014年の事後調査の報告書が膨大なファイルpdfで入手できました。ただしジュゴンの食み跡の詳細な写真が掲載されている「資料編」は、まだマスキングや調整などが終わっていないので出せないとのこと。とにかく、赤嶺議員と事務所のスタッフに感謝、感謝です。

報告書の膨大なファイルは、来週中にも防衛局のHPで掲載されることを期待し、ここではまず今回の報告書の開示の過程から見えたことについて3点書きます。

1) 報告書公開の遅滞、でも米軍にはすでに公開
2014年の事後調査の報告書を公開しない理由について沖縄防衛局は、貴重種の生息場所についてのマスキングや、その他の重要な情報の公開について調整するため、と説明していました。しかし「報告書」はコンサルの「いであ」社により2015年3月までには防衛局には提出されていたようです。すると、マスキングや調整を1年以上もかけたことになります。そんなに沢山の情報を隠さなければないとは、、、それだけ貴重な種が生息する環境をなぜ壊すのか、、、。私たちにさらなる不信感を与えています。

ところで防衛省は、2015年6月に米軍へ報告書を「手交」し、その際に概要を説明した、と赤嶺議員の事務所に報告しています。沖縄県には報告書を提出せず、私たち市民には公開を拒み、自らが設置した環境監視等委員会にも見せていない(?)(資料として提出された形跡が議事録等になし)。しかし米軍には公開している。防衛省がどこに向いて、何を考えているのか、全く疑問しか出てきません。ちなみにそのようなやり方では結果的に米軍側へも迷惑になることを防衛省はそろそろ気付くべきでしょう。

2) 沖縄防衛局は本庁(防衛省)からきちんとした情報を与えられていない?
2016年1月のSDCCの要請交渉において、沖縄防衛局は、米軍側への報告書の提出や、それに基づいた米軍との協議が行われているのか、という質問に答えることはできませんでした。しかし防衛省は2015年6月には米軍に報告書を手交していた。何とも言えない情報の乖離です。

私たちは、本庁から沖縄防衛局に対して、きちんと情報が伝えられているのかどうかを大きく懸念しています。沖縄防衛局は、沖縄県の嘉手納町にあり、米軍基地が集中する沖縄においての沖縄の市民や県への対応の窓口です。沖縄防衛局が、本庁よりきちんと情報を与えられていないまま対応を任されているのであれば、私たち市民は勿論、沖縄防衛局の職員さえも軽視していると言わざるを得ません。

3) 事後調査の中間報告やアップデートを
今回の事後調査については、履行期間が2013年11月から2015年3月となっています。約17ヶ月かけて、調査を行い報告書を作成していることになります。報告書は平成27年(2015年)3月付けで出されています。

大掛かりで詳細な調査を行っているので、全体的な報告書の作成には時間が必要なことは分かります。しかしだからといって調査で明らかになった重要な情報を一年以上も外に出さないのは大きな問題です。

事後調査は、環境アセスにおいて「予測の不確実性の程度が大きく」また「効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講じる」ので行われているのです(環境アセス「評価書」の事後調査の部分はこちらから)。事後調査の結果が適時に、環境監視等委員会や沖縄県や市民に公表され、それが計画や工事に反映させられなければ、事後調査の本来の意味を成しません。税金の無駄使いといってもいいでしょう。

事後調査で出てきた結果を、「中間報告」や「update」という形で適時そして継続的に出させるように、沖縄県も、環境監視等委員会も、議員も、市民も沖縄防衛局に求めていきましょう。

  

Posted by 沖縄BD at 21:36Comments(0)

防衛局交渉より:政府の「保全措置」は問題だらけ2

2016年02月28日/ 沖縄防衛局/ 辺野古/ 環境監視等委員会

去った1月25日にジュゴン保護キャンペーンセンターが行った沖縄防衛局との要請交渉の報告の第2回目です。私はSDCCのメンバーでもあるので要請交渉に参加しました(SDCCのブログ記事はこちらから)。

前回はジュゴンの保全措置としての「海草藻場の移植」の問題について書きました。今回は「ジュゴン監視・警告システム」についてです。

「ジュゴン監視・警戒システム」
沖縄防衛局がジュゴンの保全措置として推進してきたものに「ジュゴン監視・警戒システム」があります。このシステムは、環境アセスの段階でも提示され、2015年6月に行われた第5回環境監視等委員会でも議論がなされています(第5回委員会の議事録はこちらから)。

第5回委員会の配布資料「ジュゴンに関する保全措置 ジュゴン監視・警戒システムの監視計画(案)」(その資料はこちらから。)の図が示すように、システムは、1) 工事海域の監視・警告、2) 生息域・移動域での監視・警告、3) データ解析センターの3つのサブシステムから構成されています。


           ジュゴン監視・警戒システム基本構成図

具体的な監視の手法としては1) 曳船式ハイドロホン(ジュゴンの鳴声を検出し、ジュゴンやその位置を確認する)2) 「スキャニングソナー」(魚群探知機のようなものでジュゴンの位置を確認)、3)目視による監視(陸上、海上(船)、空中(ヘリコプター)からジュゴンを確認)、4)そして各海域に設置した水中録音機(ジュゴンの鳴声による確認)から成り立っています。そしてのシステムは、辺野古・大浦湾だけではなく、沖縄本島東北部の沿岸を対象にしたジュゴンの保全措置となっています。

しかし、多くの作業船を出し、埋め立て工事を行うこと自体、ジュゴンを大浦湾・辺野古へ寄せつけなくするものだと容易に予測できます。また沖縄防衛局のアセスでは、ジュゴンは辺野古や大浦湾の利用は限られている、と結論づけています。その2点を考えただけでも、この大掛かりな「ジュゴン監視・警戒システム」自体が、なんかポーズのような、沖縄の方言で言えば「保全措置ふーなー」という感じは拭えません。

その点も踏まえて、今回の要請交渉で私たちが防衛局に追求したのは、このシステムがきちんと機能するのか、ということでした。特に沖縄防衛局が鳴りもの入りで進めてきたジュゴンの鳴声を探知するハイドロホンの有効性について質問をしました。


            タイで検証試験に使われた監視装置の主要部分


ハイドロホンは辺野古・大浦湾で使える? 防衛局の回答とNGOの質問
要請交渉において沖縄防衛局の職員は、1) ジュゴンの鳴音を探知し、ジュゴンの存在を確認できるハイドロホンのシステムはすでに確立され、2)それは多くの作業船が行き来するなかでも使えるものである、との認識を示しました。つまり、埋め立てや基地建設工事の騒音の中でも機能するという認識でした。そしてその根拠として、タイにおいての検証試験に言及しました。その検証試験については、第5回環境監視等委員会で配布された資料で読む事ができます(その資料はこちらから)。

その認識に対して私たちは、1) ハイドロホンの検証試験が行われてきたタイ、トラン県タリボン島と、工事が行われる辺野古・大浦湾の状況は大きく異なる、2) それゆえ、タイでの検証試験をもって、このシステムが辺野古・大浦湾においても適用できるとするのは問題である、と主張しました。そして3)防衛局の認識を支持することのできる、防衛局の資料以外の報告書や学術論文等を示して欲しいと要求しました。

要請交渉に対応してくれた沖縄防衛局の職員は音響システムや「保全措置」の専門家ではありません。それゆえ職員がその場で科学的論文やデータを示すことはできませんでした。まあそれは仕方ないと思います。しかし自らの基地建設強行の妥当性や「保全措置」の有効性だけを強調し、「ジュゴン監視・警告システム」の実状や課題を説明しないというのは問題です。後で書きますが、出来ていない「保全措置」も出来ているとするのは、どこかでボロがでてくるのは必至であり、それは誰が責任をとるか、という問題になります。

タイの検証試験から見えてくること
ここで沖縄防衛局が「ジュゴン監視・警告システム」の有効性の根拠として示したタイ、トラン県タリボン島の沿岸でのハイドロホンやジュゴン監視・警戒システムの検証試験について少し詳しく触れておきたいと思います。

タイにおけるジュゴンの研究や検証試験は、京都大学の研究チームが中心となり行ってきました。ジュゴンの鳴声の分析を通して、ジュゴンの行動のより詳細な理解や、鳴声探知の技術を使ったジュゴンの保全のシステムの開発に成果をあげていると思います。(報告書の例はこちらから。)

しかし私たちとしては、このハドロホンのシステムを含む「ジュゴンの監視・警告システム」が辺野古・大浦湾での基地建設工事に応用された場合、保全措置として効果があげられるのかはまだ分からない、それゆえそれを「保全措置」として位置づけるのは問題である、と考えます。

実際、第5回環境監視等委員会の議事録のなかに、私たちの考えを支持する委員と事務局のやり取りがあります。




この議事録でのやり取りからは、決して、このハイドロホンがきちんと辺野古・大浦湾の工事に応用できるとは読めないはずです。タリボン島と沖縄ではジュゴンの頭数も違う。往来する船の種類や数も違う。さらには、このシステムの確立には、ジュゴンの鳴音を聞き分ける人の養成が必要だ。としか読めないはずです。

それなのに沖縄防衛局の職員は、埋め立てや基地建設工事の騒音の中でも有効であるという認識を示した。環境監視等委員会の議論と実際に建設工事や保全措置を行う沖縄防衛局の認識の乖離。この乖離をもったまま基地建設を強行されては、取り返しのつかない環境破壊へと繋がっていくことになります。

このような乖離については、沖縄県も、私たち市民もしっかり指摘して、沖縄防衛局に適切な対応を求めなければなりません。そしてなによりも、環境監視等委員会が、そのような乖離についてしっかりと反論していくべきことが必要であるでしょう。そして環境監視等委員会がきちんと機能できように、沖縄県や私たち市民が同委員会に注視していくことも必要でしょう。





  

Posted by 沖縄BD at 13:35Comments(0)

環境監視等委員会からの辞任表明:東清二先生を支持する声明

2015年03月19日/ 沖縄防衛局/ 辺野古/ 環境監視等委員会

3月17日、沖縄・生物多様性市民ネットワークは、他の18の環境・市民グループとともに、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会」(環境監視等委員会)から辞任を表明した東清二琉球大学名誉教授を支持する声明を発表しました。そして同日、沖縄県庁の記者クラブにおいて、声明発表の記者会見を開きました。



  記者会見の模様 photo by K. Nakamura-Huber


声明文では、東先生の辞任表明を支持するとともに、東先生が「環境保全はできない」と批判した環境監視等委員会の問題点を、私たちが沖縄防衛局との交渉を通して得た情報を含めた様々な情報をもとに、整理・指摘しています。また、環境監視等委員会、沖縄防衛局に対してはもちろん、県議会や知事に対しても、早急な対応を求めています。

以下、声明文をはりつけます。またダウンロードできるように声明文と配布資料をpdfファイルでも添付しています。配布資料は、環境監視等委員会の役割や位置づけの問題を浮き彫りにする資料になっています。声明文とともに資料も活用してもらえればと思います。



2015年3月17日

東清二氏の「環境監視等委員会」の辞任表明を支持し、
環境監視等委員会の問題を指摘し、関係機関に対応を求める声明

 2015年3月9日、東清二琉球大学名誉教授が「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会(以下、環境監視等委員会)からの辞任を表明した。東氏はその理由として、環境監視等委員会では「環境保全ができない」(琉球新報、2015年3月11日)とし、同委員会は「基地造る前提」で「専門家からのお墨付きをもらうための意味がないもの」(沖縄タイムス、2015年3月12日)、と述べている。

 環境監視等委員会の役割や責務が内部からも問題視される(琉球新報、2015年1月31日)なか、環境監視等委員会の副委員長であり、沖縄出身者の昆虫の専門家として、沖縄の生態系を広い視野で研究し続けてきた東氏による辞任表明。それは、環境監視等委員会が、環境保全の担保として機能しておらず、そのような委員会に責任は持てないという科学者・専門家としての東氏の明確な意思表示であり、責務を果たした選択であると、私たちは考える。そして辞任表明の背景にある「自然が生きてこそ昆虫が生かされる。信念として沖縄の自然を後世に残したい」(琉球新報、2015年3月11日)とする東氏の信念と姿勢に私たちは強く共感する。

 私たちはここに、東氏の環境監視等委員会からの辞任表明を強く支持するとともに、環境監視等委員会が抱える問題を訴える。

 そして私たちは、環境監視等委員会に対して、同委員会の責務と機能について再検証し、その検証に基づいて、適切な対応をとることを強く訴える。

 私たちは、沖縄防衛局に対して、東氏の意思を尊重し、辞意表明を受けいれ、環境監視等委員会が機能していないことを認め、委員会を停止させることを求める。

 私たちは、沖縄県議会に対して、県が課した公有水面埋め立て承認の留意事項である環境監視等委員会が機能していない状況を、2014年の県議会「百条委員会」における議論とつき合わせ、早急に検証し、知事による埋立て承認の取り消し・撤回にむけて、議会として適切な対応をとることを求める。

 私たちは、翁長雄志沖縄県知事に対して、県が課した公有水面埋め立て承認の留意事項である環境監視等委員会が機能不全となっている状況を受け、埋立て承認の取り消し・撤回の判断を早急に行うことを求める。


以下、環境監視等委員会の問題点を整理する。

1. 環境監視等委員会の役割と位置づけ
 環境監視等委員会は、2013年12月に仲井真弘多前沖縄県知事が普天間飛行場代替施設建設のための辺野古・大浦湾での公有水面埋立を承認した際、留意事項の一つとして前知事により掲げられ、沖縄防衛局により設置された。しかし、環境監視等委員会の役割や位置づけの認識において、沖縄県と沖縄防衛局の間に大きな乖離が存在し続けている。

 沖縄県は、留意事項で「環境保全対策等について、各分野の専門家から構成される環境監視等委員会(仮称)を設置し助言を受けるとともに、特に、外来生物の侵入防止対策、ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと」と環境監視等委員会を位置づけている。そして沖縄県は、2014年1月の沖縄県議会百条委員会(同委員会報告書、2014年7月15日)や環境NGOとの交渉において、辺野古・大浦湾の豊かな環境に多大な影響を及ぼす同事業に対する数少ない「環境保全の担保」としての委員会である、という認識を示してきた。

 しかし沖縄防衛局は、環境監視等委員会の目的を同委員会運営要綱(2014年4月11日付け)で「建設事業を円滑かつ適正に行うため、環境保全措置及び事後調査等に関する検討内容の合理性・客観性を確保するため、科学的・専門的助言を行うこと」とし、基地建設を前提とした委員会に変えていった。

 今回の東清二氏の、環境監視等委員会では、「環境保全ができない」(琉球新報、2015年3月11日)、「基地造る前提」で「専門からのお墨付きをもらうため」(沖縄タイムス、2015年3月12日)という理由による辞任表明は、同委員会の役割や位置づけの認識について沖縄県と沖縄防衛局の間に乖離があったことを反映したものである。さらには環境監視等委員会の委員の間でも認識に乖離があったことを示唆している。これでは環境監視等委員会が機能しているとは言えない。

2. 環境監視等委員会の不透明性
 普天間飛行場代替施設建設事業のように政治性が非常に強い事業において、環境や環境保全措置を扱う委員会がきちんと、「合理性・客観性を確保」し、「科学的・専門的助言」を行えているかどうかを確認するには、委員会の透明性が不可欠である。しかし環境監視等委員会はあまりにも不透明な部分が多い。

 これまで3度開催されてきた委員会は、非公開で行われ、「議事要旨」等で公開される内容も限定的であると言える。それゆえ委員会にどの専門家からどのような助言がなされ、その助言が沖縄防衛局の保全措置にどのように反映され、どのような結果となったかについて、外からの検証が難しいものとなっている。限定的な公開により、委員の専門家としての自由な意見表明を保証するという議論もあるが、同環境監視等委員会の状況は「不透明」さにより、委員会の信頼を損ない、委員の専門家としての立場を難しくさせているとも言える。

 例えば、2015年1月/2月に沖縄防衛局により、浮標やオイルフェンスを設置するために岩礁破砕許可区以外で巨大コンクリートブロックが投入され、サンゴ等が破壊された問題である。巨大コンクリートブロックの投入は、2015年1月6日開催の第3回委員会で、2014年10月の台風19号により防衛局が設置していたアンカーが消失したことについて議論がなされた後に行われている。しかし現在公開されている「議事要旨」のみでは、同委員会いおける委員からの提言や議論が、どのように沖縄防衛局の巨大コンクリートブロック投入の判断そして実施へと結びついていったのか分からない。

 東清二氏は、第1回目の委員会への参加の後「『専門家の意見を聞かない』印象を受けた」とし、第2回、第3回目への委員会を欠席したとしている(沖縄タイムス、2015年3月12日)。さらには「防衛局から議事内容を秘密にするように求められた」とも言われている(Ibid)。事実、沖縄防衛局は、環境NGOからの第2回と第3回環境監視等委員会の議事録や資料の公開の再三の要請にも関わらず、「公開事項の調整」「マスキングの作業」を理由に公開を遅らせてきた。2014年6月に行われた第2回委員会の議事要旨に関しては、9ヶ月後にしか公開されていない。

 なぜ「公開事項の調整」「マスキングの作業」にそれだけ長い時間が掛かるのか。公開されると問題となる議事内容があるのか。公開されていない議事内容があるのではないか。これらの疑問が解決されないまま、環境監視等委員会が環境保全の担保としての機能を果すことは困難である。

3. 環境監視等委員会への沖縄防衛局からの情報提供の問題
 環境監視等委員会は13名の委員から構成されているが、沖縄在住で沖縄の環境に詳しい委員はその3分の1しかいないと言える。それゆえ、環境監視等委員会が機能していくには、事業者であり、環境アセスや事後調査を行ってきた沖縄防衛局から、必要かつ正確な、そして出来るだけ詳細な情報が提供されることが不可欠である。しかし沖縄防衛局がそのような情報を提供してきたのかどうか疑問視される状況にある。

 例えば、2014年5月から7月にかけて環境NGOによって、辺野古・大浦湾の基地建設予定地やその近辺で150本以上のジュゴンの食み跡が確認されているが(日本自然保護協会、2014年7月9日)、公開された環境監視等委員会の議事要旨からは、この件について検証、議論されたのかが確認できない。絶滅危惧種であり国の天然記念物であるジュゴンの保全は重要課題であり、また辺野古・大浦湾におけるジュゴンの食み跡の確認は、沖縄防衛局の同海域でのジュゴンの「利用は限定的」という環境アセスの予測と乖離しており、検証は不可欠なはずである。

 さらには、沖縄防衛局が第2回環境監視等委員会(2014年6月20日)で配布した「仮桟橋」の資料が一部書き換えられて2015年3月9日に防衛局のHPで公開され、それが委員には知らされていないことが明らかになっている(沖縄タイムス、2015年3月10日)。防衛省は書き換えを認め「今後は適切に対処する」(琉球新報、2015年3月11日)としている。

 環境監視等委員が必要かつ正確な情報を得られずに議事が進んでいる状況では、環境監視等委員会が環境保全の担保としての機能を果せているとは言い難い。

声明賛同団体
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
奥間川流域基金
琉球諸島を世界遺産にする連絡会
沖縄リーフチェック研究会
公益財団 日本自然保護協会
ヘリ基地いらない二見以北十区の会
ジュゴン保護キャンペーンセンター
米軍基地に反対する運動をとおして沖縄と韓国の民衆連帯をめざす会
西表をほりおこす会
ジュゴンネットワーク沖縄
民宿ヤポネシア
New Wave to HOPE
わんから市民の会
憲法9条メッセージ・プロジェクト沖縄
宮森630を伝える会
ジュゴン保護基金
「ヘリパッドいらない」住民の会
Okinawa Outreach
北限のジュゴンを見守る会
なはブロッコリー
(順不同)

連絡:沖縄・生物多様性市民ネットワーク
共同代表 吉川秀樹 
090-2516-7969
yhidekiy@gmail.com 
    
沖縄県宜野湾市志真志4-24-7
ぎのわんセミナーハウス 304
NPO法人奥間川流域保護基金事務所内
Tel/Fax 098-897-0090


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巨大コンクリート・ブロック投入と「環境監視等委員会」

2015年02月18日/ 沖縄防衛局/ 辺野古/ 環境監視等委員会

防衛局との交渉からみえてきたこと
先日2月16日、ジュゴン保護キャンペンセンター(SDCC)が辺野古・大浦湾で強行されている米軍基地建設工事について沖縄県と沖縄防衛局と要請・交渉を行った。要請・交渉の全体の内容はSDCCのブログで報告されているが(ここをクリック)、防衛局との交渉で明らかになった重要な一点についてぜひ紹介したい。


              SDCCと沖縄防衛局との交渉

それは沖縄防衛局が、辺野古・大浦湾にはりめぐらせているアンカーやオイル・フェンスを固定するために投入し、その結果サンゴを壊している巨大コンクリート・ブロックと、沖縄防衛局が設置した「環境監視等委員会」の関係性だ。

環境監視等委員会とは
「環境監視等委員会」は、2013年12月に仲井真弘多前沖縄県知事が埋立承認をした際、沖縄県が留意事項として要請し、2014年4月に防衛局が設置した専門家による委員会だ。同委員会の運営要綱によれば、同委員会は「建設事業を円滑かつ適正に行うため、環境保全措置及び事後調査等に関する検討内容の合理性・客観性を確保するため、科学的・専門的助言を行うことを目的」としている(運営要綱はここをクリック)。

同委員会はこれまで3回(2014年4月、2014年6月、2015年1月)開催されている。しかしその位置づけは、基地建設を前提としており、実際環境保全の担保としてどれだけの役割を担えるのかは不透明な部分が多い。またNGOの再三の要求にも関わらず、沖縄県も2月2日に要求したが、第1回の委員会議事録を除いて、第2回、第3回委員会の議事録は未だに公開されておらず、委員会の協議の内容も非常に不透明なものとなっている。

アンカー(巨大ブロック含む)の設置の流れと第3回環境監視等委員会
さて2014年の7月1日に工事の「着手」があり、その後ボーリング調査のための工事が始まり、2015年1月27日から巨大コンクリート・ブロックの投入があった。工事の一連の流れと第3回環境監視等委員会の開催時について以下のように整理してみた。

工事着手(2014年7月1日)
↓ 
臨時制限区域を示すフロートの設置(2014年8月14日)

フロート固定の鋼板アンカー248個投入

台風19号襲来 (2014年10月10日~12日)

鋼板アンカーやワイヤーロープによるサンゴや藻場の損傷が市民団体により発覚(2014年10月15日、17日)

鋼板アンカー120個消失、またロープ等がサンゴ、藻場を傷つける

第三回「環境監視等委員会」(2015年1月6日)
*鋼板アンカーの消失やサンゴの損傷についても協議

海上での工事再開(2015年1月15日)
オイル・フェンスやフロートを沖へ広げる

オイル・フェンスやフロート固定のために20トン級以上のコンクリート・ブロックを海中に投入(2015年1月27日)

市民団体によりコンクリート・ブロックによるサンゴ破損の問題の指摘(2015年2月8日)。



  巨大コンクリート・ブッロクに押し潰れたサンゴ塊(牧志治撮影 2015年2月8日)


巨大ブロックの投入は誰の判断か
2月16日の要請・交渉でSDCCは、誰が何を根拠にして、通常のアンカーよりはるかに大きい巨大コンクリート・ブロックを投入し、フロートやオイル・フェンスを固定することを決めたのか、と沖縄防衛局に追求した。防衛局の担当は、具体的なことは話せない、と何度も繰り返していた。しかし上の経緯で示したように、第3回環境監視等委員会の協議を経て、巨大なブロックが投入されたことは認めた。

事実、1月6日の環境監視等委員会の第3回委員会後に開かれたブリーフィングでは、台風19号によって設置したアンカー等がサンゴや藻場を傷つけ、また120個のアンカーが消失したことに関連して(朝日新聞の記事はこちらをクリック)、

「今後同規模、それ以上の台風の通過も考えられるということもあるので、必ずしもアンカーの重量を重くする等のハード的な対策だけでなく、事前にうまく避難する等のソフト的な対応も含めて対応すべしという意見あった」という委員長のコメントがなされている。

勿論、第3回委員会の議事録は公開されていないので、協議の詳細(誰がどのような発言をしたか)は分からない。ブリーフィングでの委員長のアンカー重量への言及は、事業者である防衛省/防衛局の「アンカー重量を重くする」という提案に対しての発言だったのかも知れない。あるいは、委員の誰かが提案していて、その提案に対しての委員長の発言だったかもしれない。

いずれにせよ、第3回委員会での検討を踏まえ、沖縄防衛局がとった行動が、巨大コンクリート・ブロックをアンカーとして投入したことだったことは明らかになった。そしてそれが環境保全措置とは言い難い結果へと繋がっている。いやむしろこれが、基地建設ありき/基地建設を前提として設置されたこの委員会が出来る最大限の保全措置なのかもしれない。


環境監視等委員会内で疑義
琉球新報は、1月31日の記事で環境監視等委員会の委員の苦悩を報告している。「委員自らが監視委の客観性確保や環境影響判断の難しさに疑問を呈し、第三者委員会を求めていた」というのだ(琉球新報の記事はここをクリック)。

これは同委員会が設置された第1回委員会のにおいて、基地建設を前提とした上で「最大限の環境監視を科学的に実現すること」とした委員会が、その実現の難しさを吐露したものと言えよう(第1回委員会の議事録はここをクリック。p11に注目)。

安倍政権が強権的に基地建設を押し進め、辺野古・大浦湾の豊かな自然環境を今回のような形で壊し続けるならば、県が留意事項として位置づけた環境監視等委員会の位置づけや役割、そしてその責任は幾度も問われていくであろう。

昨年11月に、日本生態学会など自然科学系の19学術団体が、基地建設の見直しを求めて要請書を沖縄県と国に提出した。要請文では「世界の生物多様性のホットスポットとの一つと認識されているわが国の中でも、極めて生物多様性の高い地域」と指摘し、国の環境アセスも問題視している(同要請書はここをクリック)。また2月16日には、日本環境会議理事会が日米両政府に対して米軍基地建設に向けた埋立て工事の即時中止を要請し、環境大臣に対しては辺野古・大浦湾の海を保全するように求めている(同要請書はここをリック)。

基地建設を強権的に押し進める安倍政権、基地に断固と反対する沖縄県民とその県民に選ばれた翁長知事、そして科学的・専門的認識のもと辺野古・大浦湾の自然環境の保護・保全を訴える学術団体等。その間に板挟みになっているのが環境監視等委員会であり、環境保全の担保と成り得ない同委員会が悲鳴をあげているのは当然だといえるのではないか。日米両政府はこの無謀や基地建設計画を即時撤回すべきだ。
  

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