49回沖縄生物学会:生物多様性地域戦略のシンポジウム

2012年05月31日/ 生物多様性地域戦略

5月26日に琉球大学で開かれた49回沖縄生物学会において、公開シンポ「生物多様性地域戦略の実効性を高める手立てとは」がありました。

シンポのパネリストには、沖縄県の生物多様性地域戦略の策定検討委員会の土屋誠委員長や事務局である自然保護課の富永課長を含め委策定検討委員会のメンバーが4人参加しており、地域戦略策定の進捗状況が垣間みれたと思います。(沖縄県の取組みについては沖縄県自然保護課のHPをご覧下さい)

それから、さまざまなステークホルダーがいてそれぞれが生物多様性や保全や利用に関心をもっているけど、まだまだ繋がりきれないというのが現状である、ということも確認できたと思います。例えば、企業もいろいろプロジェクトをやりたいが、科学者/専門家がいないために実現できない部分がある、という意見がありました。

シンポの内容については、サンゴ学者の安部真理子さんが自らの感想を含めて沖縄BDのMLで報告しています(自分の発表もあって忙しかったはずなのに。真理子さん、どうもありがとうございました)。そのまとめを以下に抜粋引用しますので、ぜひ読んで、沖縄県の生物多様性地域戦略へ関心をもち、どんどん意見をだして頂きたければと思います。意見は直接沖縄県の自然保護課へ出してもいいと思いますし、沖縄BDを通してでもいいと思います。

まずは安部真理子さんの感想:
「小中学校の生物の先生方の現場からの声を拾えたのは大変良かったと思います。本当にお困りのようでした。しかし場が生物学会ということもあり、生き物だけではなく地形や人権などいろいろとあると思うのですが、そういう議論までには至りませんでした。」


以下、安部真理子さんのシンポの報告です。

シンポの構成:
花井正光氏(沖縄エコツーリズム推進協議会)が世話人となり、土屋誠氏(琉大理学部教授、環境省生物多様性国家戦略小委員会委員)、富永千尋氏(沖縄県自然保護課)、中嶋博之氏(カヌチャベイリゾート企画総務部)、山崎仁也氏(県立博物館美術館主任学芸員)、吉川秀樹さん(沖縄BD)、渡邉正俊氏(沖縄市美里中学校教諭)がそれぞれ5分プレゼンの後、パネルディスカッションとなりました。

土屋先生(琉球大学)からは、生物多様性地域戦略を各県や市町村が作ることになった経緯のお話がありました。その他、論点として生物多様性という言葉は普及しているが、実態が伴っておらず、生物多様性はなぜ大切か?が理解されていない。つまり言葉ばかりが普及し、中身が伴っていないという点があげられました。また「生態系サービス」がキーワードになるのではと示唆されていました。

富永氏(自然保護課課長)からは、地域戦略策定の背景、策定作業の経過、戦略骨子の概略、重点課題について説明がありました。自然保護課のウェブサイトに掲載されているものでした。現在は庁内推進会議の設置を進めているとのこと。

中嶋氏(カヌチャベイホテル)からは、「環境と経済は同軸」であると題し、循環型リゾート構想が提案され、また「観光業界の沖縄モデルを確立し、国外に輸出(産官学&政策)したい」と思い切った提案が出ました。

山崎氏(県博)は、2013年夏の来生物多様性企画展で何ができるか、というお話でした。生物多様性主流化に向けて積極的にやりたいと思うものの、内容がいまいちピンと来ず、困ってらっしゃるようでした。

吉川氏(沖縄BD)からは、沖縄BDの活動目的・経歴について説明があり、最後に「生物多様性地域戦略に期待すること」として「使える地域戦略に!」「世界に誇れる、発信できる地域戦略に!」「沖縄にあった地域戦略に!」が話されました。

渡邉氏(中学校教員)からは、「沖縄県の生物データがない」「生物多様性はなぜ必要かを考えさせる教材がない」と心からの訴えがありました。また今は環境教育が教育者個人にかかっているものの、それでは限界があるので、「環境教育の教科化が必要」とのこと。さらにはコーディネートしてくれる人がおらず、横の連携がないのが問題で、ときたま訪ねてくる企業やNGOなどがあっても、対応できず、次も期待できるのかわからず、困る。そして経済的、人材的、制度的問題としては県、企業、学会として学校を支えて欲しい。

・・・という全体的に現場からの悲痛な訴えでした。


討論タイム;
花井氏:まず、地域戦略を有効な実行力を持たせるにはどうしたらよいか、それから地域戦略策定の進捗状況はどうなっているのか、富永課長?
富永氏:3つのキーワード「知らせる」「つなげる」「動ける」をもとに、今年度以内に地域戦略を策定していく。

質問者1
指標生物のモニタリングをしたいと以前から言ってきた。また学校の理科の先生ならば動けるし、まさに「知らせる」「つなげる」「動ける」ことができると思う。そして集積したデータにより沖縄県の自然環境の変遷をおうことができるはず。沖縄生物研究会(高校の生物の先生から成る)から「フィールドガイド沖縄の生き物」を出版したのですが、これは隠れたヒットセラーとなり売れ続けている。だからニーズはあるはずで、そういうしかけさえ作ればうまくいくのではないか。先生方が関われば子供につながる。できたら生物学会としても具体的に指標生物を選んで欲しい。これは、ずっと3年前ほどから考え、訴えて続けている。

質問者2:地域戦略の拠点についてはどう考えているのか?過去のデータを集約する場所が必要で、このような場所があれば先生が使える。コーディネーターやアドヴァイザーをおくことができれば、先生方が必要なときに聞くことができるはず。イベントを開く(産官学民の連携等)ときにも、1つのサイトに情報がすべて掲載されている状態があることは重要だと思う。

山崎氏:そういう場があるとしたら県博物館だと思う。しかし現在の体制では、私一人ではできない。少なくとももう1人、いないとだめだと思う。
富永氏:一緒にやっていけるのでは。
山崎氏;いろいろな連携が必要で、専門の学芸員が必要である。

花井氏:他に何かこれだけは言っておきたいこと、というのはあるか。
吉川氏:科学者、専門家の独立性が保障されていないことも問題。政治的に利用されることもある。専門家が専門の意見を言えるような場を作ることを念頭にいれて、地域戦略を策定していくことが必要だと思う。

花井氏:まとめとして言えるのは、地域戦略における当事者はすべての人ということ。いろんなひとが関わることができる場を作ることが大切であることは、みんなで共有されていると考える。言葉のうえではあいまいでも、個人の関わりとしては誰においても無関係ということはない。当事者として、場の整備あるいは場を作ることが大切。生物多様性をを守るだけではなく、うまく使うという視点が必要になってくるであろう。これから取り組まれていく世界自然遺産の仕組みが活用できるのでは。自然遺産の取組みについては岡野氏に話していただく。

岡野氏(環境省/鹿児島大):環境省は、琉球列島を世界遺産にするための取り組んでいく。うまく世界遺産の仕組みを使えないか。外来種対策、保護地域の問題などもあるが、それを世界遺産に向けての取組みでできないか。

世界自然遺産登録には次の2つの条件を満たすことが必要。1)世界的に価値があること(島、絶滅危惧種)、2)将来にわたって守る体制ができていること。

推薦書を作って世界にアピールする。このプロセスにより地域の生物多様性を見直す機会になる。保護地域に関して科学者の意見を反映する機会を作る。知床や小笠原では科学者の意見を聞いて外来種対策等行っている。実効性を高めるツールとなる。よく話題になるよう経済効果ももちろんある。そういう懸念も含めて、科学的知見に基づいて、今、議論が必要。

花井氏:最後にもう一度強調したいことは、多くの人が当事者として策定過程に参加することが大切ということ。パブリックコメントの際に声をあげていただきたい。


以上です!


パネリストで参加した沖縄BDの吉川のパワポはこちら49回沖縄生物学会/生物多様性地域戦略(吉川)









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Posted by 沖縄BD at 09:49│Comments(1)
この記事へのコメント
2011年6月1日から2012年5月31日までに、沖縄タイムスの投稿欄に掲載された投稿は計2540本です。
(「主張、意見」1775本、「論壇、寄稿」410本、「茶のみ話」355本)

投稿者の年代別に見ると、

10歳代   25   1.0%
20歳代   75   2.9%
30歳代  235   9.3%
40歳代  273  10.7%
50歳代  304  12.0%
60歳代  758  29.8%
70歳代  669  26.3%
80歳以上 197   7.8%
不明      4   0.2%

平均年齢は60.88歳。60歳代と70歳代による投稿が全体の約56%を占めています。
Posted by キン坊 at 2012年06月01日 22:43
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