<辺野古アセス>審査会への意見(河村雅美)

2012年01月28日/ 辺野古アセス

 私(河村雅美)は、評価書が今後、国際的な場でどのような意味を持つのかのインプットを審査会委員への意見として書きました。IUCN、世界自然遺産登録、ジュゴン訴訟、生物多様性関係など。
 このアセスは沖縄の中にとどまるものではないということを、具体的な例を出して書いてみました。
 辺野古アセス違法訴訟の報告集会で、アセスの非科学性を指摘した粕谷俊雄氏は、「この評価書が英訳されたら・・・」とおっしゃっていましたが、その可能性についても書いています。

<辺野古アセス>審査会への意見(河村雅美)
専門家の匿名性が話題になった2009年11月UNEPワークショップ


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沖縄県環境影響評価審査会あて
普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書への意見
環境保全の見地からの意見

評価書の国際的影響について
「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」(以下、辺野古アセス)が、沖縄県のみの問題ではなく、国際的に注目されていること、また、この評価書の結果がどのように国際的に影響を及ぼすかについて、IUCN(国際自然保護連合)生態系管理委員会委員、国連生物多様性10年の市民ネットワーク幹事、沖縄・生物多様性市民ネットワーク事務局次長、またジュゴン訴訟の原告をサポートしている立場から審査会の委員の方々にこの機会を用いて、述べておきたい。

1. 国際的基準に達していない環境アセスという点から:匿名の専門家問題
 新基地建設予定地の辺野古・大浦湾は、世界的にも注目される生物多様性豊かな地域であり、そこには国際的な目が注がれ、そのアセスも国際的な場で評価される可能性がある(後述)。そのため、ここで実施される環境アセスは、国際的な基準に達していることが必要とされるであろう。
しかし、このアセスが匿名の専門家で進められ、その結果、アセスの重要要件である科学性を欠くことになったことは、辺野古アセスの違法性を問う「辺野古アセス訴訟」の証言者からも指摘されている。これは、辺野古アセスを国際的に通用しないものとしたと考えられる。
2009年11月に沖縄で行われたUNEP(国連環境計画)の 「環境規範と軍事活動に関する国際市民社会作業部会(International Civil Society Workshop)」では、筆者から辺野古アセスの「準備書」作成にかかわった専門家の氏名が非公開とされていることについて、海外からの参加者に各国の事情を問いかけたところ、「当然公表されるべきだ」との批判があがった。プエルトリコのニルダ・メディナ氏は、「誰が準備書にかかわるか要望できる。信頼できない人が書いた準備書は信頼できないからだ。きちんとした証拠がなければ準備書を受け入れる必要はない」と指摘した。米国ハワイのEarth Justiceデヴィッド・ハンキン弁護士は「一体誰が調査しているのか分かるためにも専門家名は公表されるべきだ。そうしないと市民の参加ができない。アメリカなら訴訟になる」と語っている(『琉球新報』「国連環境計画作業部会:普天間アセス専門家名の非公表 各国から疑問の声」2009.11.28)。
 ちなみに、辺野古新基地を使用する予定である米国のアセス文書の内容は、the Environmental Quality Improvement Act of 1970で法的に制定されており、Sec. 1502.17 list of preparersの部分で、Environmental Impact Statement(評価書にあたる)を作成した人の名前と資格(専門、経験、研究者としての訓練)の記載が義務付けられている。Sec. 1502.17 List of preparers./The environmental impact statement shall list the names, together with their qualifications (expertise, experience, professional disciplines), of the persons who were primarily responsible for preparing the environmental impact statement or significant background papers, including basic components of the statement (Secs. 1502.6 and 1502.8). Where possible the persons who are responsible for a particular analysis, including analyses in background papers, shall be identified. Normally the list will not exceed two pages.
 このような基本的な条項が欠けている国際基準に達しない環境アセスを認めてしまうことは、沖縄県、環境影響審査会の姿勢を国際的にも疑われることとなる。このアセスは適切な手続きをふんでいないものであること、そしてそれが国際的にも問われる結果となることを踏まえ、審査会委員は今後、ご審議いただきたい。

2. ジュゴン関係
1)国際自然保護連合(IUCN)勧告・決議
IUCNのジュゴンに関する勧告/決議(2000、2004、2008) では、米国政府に、環境アセスメントを完遂し保全の行動計画を策定するために日本政府と協働することを要求している。 
辺野古アセスでは、住民意見でも指摘があったにも関わらず、IUCNの勧告・決議についてジュゴンの部分に記述もせず、全く無視をしている。
IUCNの生態系管理委員会の委員として、これを見逃すことはできない。辺野古アセス手続きが進んでしまうことになれば、沖縄県もこの勧告/決議を無視したこととなる。IUCNは、世界最大の自然保護機関であり、世界遺産条約の自然遺産に関する公的な諮問機関の役割を持ち、技術的な評価・調査、登録についての助言を行う機関でもある。この評価書の沖縄の評価が、国際的な環境ネットワークの中で知られること、そして現在、琉球諸島が候補となっている世界自然遺産登録へも影響がある可能性を念頭に置いていただきたい。

2)ジュゴン訴訟
-国家歴史保存法(NHPA)の遵守手続きにおいて
この環境アセスは、米国で進行中のジュゴン訴訟に大きな影響を及ぼすこととなる。
ジュゴン訴訟は、2003年、辺野古/大浦湾への米軍基地建設が国家歴史保存法(NHPA)違反として米国で起こされた裁判である。原告は沖縄住民3名、日米の環境NGO、日本環境法律家連盟、被告は実質的に国防総省、原告代理人弁護団はアメリカの環境訴訟を専門とする弁護士事務所Earthjusticeである。この訴訟では、原告が「普天間飛行場代替施設」は米国の事業であり、建設の手続きがアメリカの法律のNHPAに違反していることを主張し、2008年原告が勝訴した。判決では、カリフォルニア北部地区合衆国連邦地方裁判所が、米国国防総省は、日本政府と建設計画を策定する際にNHPA402条を遵守していないと裁決し、国防総省が、軍事基地建設がジュゴンの文化的・歴史的価値に与える影響を考慮にいれることにより、NHPAを遵守することを命令した。
 国防総省はNHPAを遵守するための手続きにおいて、ジュゴンの文化的・歴史的価値への悪影響の回避、緩和を検討することになる。その過程では、国防総省が、日本政府(沖縄防衛局)のアセスを精査するプロセスがあり、評価書は、辺野古アセスがNHPAを遵守するための正当性を持つアセスか否かが問われることになると考えられる。
-米国海洋哺乳類委員会(MMC)における検討
NHPA法の下でジュゴン問題に関わる機関は、国防総省だけではない。米国海洋哺乳類委員会(MMC)もまた、ジュゴン訴訟に関わってくることになる。
2009年12月、沖縄から吉川秀樹氏と、原告である東恩納琢磨氏が、米国の環境NGOである生物多様性センターの代表と、MMCの年次総会に参加した。沖縄からの代表者2名はジュゴン訴訟、日本の政治状況、沖縄におけるジュゴンの文化/歴史的価値、および基地建設がジュゴンに及ぼす影響の懸念について発表している。その2009年の年次報告において、MMCはこの2名の発表に対して以下のような回答をした。
「もし、移設計画の検討後、計画案に変更がなければ、MMCは国防総省の
NHPA法の下でのジュゴンの影響に関する分析結果が入手次第、それを検討し、
コメントをする。」
MMCは、この回答どおり沖縄防衛局のアセスを検討し、それに対してコメントをする可能性がある。MMCの検討とコメントには法的拘束力はないが、辺野古アセスの評価書が国際的な場で扱われる可能性が考えられる。

 このように、ジュゴンに関する部分は、国際的な場でアセスを評価される可能性がある。

3 生物多様性の面から
 沖縄は、沖縄・生物多様性市民ネットワークが、2010年に名古屋で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)に対して積極的に取り組み、辺野古・大浦湾の米軍基地建設に関して、アピールをした。
 その結果、COP10における「国際生物多様性先住民族フォーラム」の最終声明で、「辺野古・大浦湾への米軍基地建設への憂慮」が示された。また、2011年5月16-27日に国連本部(ニューヨーク)で開催されていた国連先住民問題常設フォーラムには、沖縄・生物多様性市民ネットワークが市民外交センターなどと、辺野古・大浦湾への基地建設問題を盛り込んだ共同声明を提出した。この問題は生物多様性条約や国連関係の会議で今後言及されることとなっていくことが考えられる。
 生物多様性条約では、人権の問題も重視されており、強硬な方法で提出された評価書については、その部分の追及も行われることが予想される。

 このように、辺野古アセスは沖縄県内、日本国内の問題に限られたものではない。それは、この辺野古・大浦湾の自然環境が世界的に重要なものであるというだけではなく、国際的な場で議論されるものであること、そしてそのアセスへの姿勢が沖縄県の姿を問われるものであることを述べ、審査会の委員の先生方には、このアセスが体を成していないということから、アセスのやり直しの英断を提言したいと思う。

IUCN生態系管理委員会委員
国連生物多様性10年の市民ネットワーク幹事
沖縄・生物多様性市民ネットワーク事務局次長

河村 雅美

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Posted by 沖縄BD at 17:27│Comments(0)
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