<辺野古アセス>審査会への意見(吉川秀樹)

2012年01月28日/ 辺野古アセス

先日の辺野古アセスに関する県の審査会へ、以下の意見を提出しました。

ジュゴンに関しての「評価書」の基本的な問題は、他にも多くの人が指摘してくれるだろうと考えたので、ちょっとちがう感じで書こうとしたら、本当にちょっとちがう感じになってしまいました、、、。

でも一応、これからこの「評価書」が、ジュゴン訴訟やMMC(米国海洋哺乳類委員会)などを通して、国際的な目に晒されるということを意識して書いています。  吉川秀樹

<辺野古アセス>審査会への意見(吉川秀樹)

評価書の中のジュゴン


環境保全の見地からの意見:ジュゴンについて

沖縄防衛局の「評価書」は、その調査結果を通して、新たな米軍基地の建設予定地の辺野古/大浦湾が、絶滅危惧種であり国内外の法や条約で保護されているジュゴンの重要な生息地であることを改めて証明した。特に「事後調査」により 、辺野古沖にジュゴンが確認されたことや、ジュゴンの餌場である海草藻場の分布・生育状況が季節や年次ごとに変化することが確認されたことは、沖縄本島の沿岸の大半を対象とした包括的なジュゴンと海草藻場の保全の必要性が改めて示されたといえる。

しかし一方で評価書は、その調査結果を以てしても、巨大な基地の建設や運用のジュゴンへ影響はない、また影響があっても保全措置により影響は避けられると予測・評価している。辺野古前にある沖縄本島内最大の海草藻場の消滅も、オスプレーの飛行や工事や米軍の船舶の航行も、ジュゴンには影響がないとしている。これはまさに「基地建設ありき」の論理により評価書が作成されているとしかいいようがない。

私が今回沖縄県の環境アセス審査会に検証して頂きたいことは、「ジュゴンへの影響なし」という結論を示すために、評価書が海外の研究や保全措置を、そのコンテクストや目的を無視して引用しているという点である。この点を追求・検証することは、このアセスがいかに科学性を無視したものであるかを示すことに繋がる。同時に、国際的にも注目されている今回のアセスにおいて、沖縄県のアセス審査委員会が、アセス制度の一つの柱である科学性を守ることにより、沖縄の環境の保全と人々の暮らしを守るという役割を果たすことになると考える。

以下の2点について検証して頂きたい。

1)評価書の「予測結果」「騒音」「Cジュゴンに対する水中音による影響」(1−16−211)の項目では、オーストラリアのモートン湾におけるジュゴンを対象にした Hodgsonの博士論文(2004)から、ピンガー(信号発信器)に関する議論が引用されている。そして「ピンガーから発信した音圧レベル133dB(音源より1m)の音(周波数10kHZ)は、ジュゴンの行動に有意な変化を与えないことが確認されています」としている。

Hodgsonの同研究と、タイ・リボン島周辺海域におけるジュゴンの鳴音を扱った日本水産資源保護協会の研究をもとに、評価書は「作業船の船舶騒音による水中音圧のレベルは、ジュゴンの利用頻度の高い範囲ではジュゴンに影響を及ぼす可能性はほとんどない」としている。そして「杭打ち工事の海中土木工事には、同時に施工する箇所数の制限や極力騒音発生の少ない工法を使用するなどの対策」をしており、工事中の水中音がジュゴンの行動に及ぼす影響はないと予測,評価している。

しかしHodgsonの同論文におけるピンガーに関する議論は、漁網によるジュゴンの混穫を避けるためにビンガーが有効であるかどうかを検証したものである。船舶の音については、同論文のピンガーに関する部分では触れられていない。

Hodgsonが調査結果(データ)から提示する結論は、10kHZのピンガーによっては、ジュゴンの行動に影響を与えることはなく、漁網による混穫を避ける手法にはかならずしも適していない、ということである(P199)。

沖縄防衛局は、なぜこのHodgsonの研究のコンテクスや目的を無視し、ピンガーに関する議論を、作業船の騒音や工事中の水中音がジュゴンに与える影響はないという議論に使ったのか。アセス審査会は沖縄防衛局の論理の根拠を検証して頂きたい。

また、もし評価書が論じるように、船舶の水中音がジュゴンの行動に影響をあたえないならば、船舶の接近に対して避難行動をとることもなく、船舶との衝突(boat strikes)が起こるという可能性も考慮しないといけないはずである。

ちなみにHodgsonは、同論文の主要な議論の一つとして、ジュゴンにとっては、船舶との衝突が、船舶からの音やピンガーの影響よりも最大の脅威である、と述べている(p.xi)。

なぜ沖縄防衛局は、Hodgson の同論文を引用しておきながら、工事中や運用に使用される船舶の種類やサイズ、航行のルートや頻度をさらに具体的に示し、船舶とジュゴンの衝突の可能性を予測し、評価しないのか。アセス審査会は検証して頂きたい。


2)基地の存在・供用における影響の予測の「船舶の航行」(6−16−226)の項目では、「飛行場時節の供用時には、航空機用燃料を運搬するタンカーが月1回程度、ヘリコプター等が故障した場合の輸送船が年1回程度来航」するとしている。また船舶は「大浦湾西側を航行する計画」であり、「衝突等の影響は殆どない」としている。

そして「環境保全措置の検討」(6−16−231)において、「オーストラリアのモートン湾海洋公園で導入されている船舶の制限速度(10ノット)を参考に設定する方針」を掲げている。

しかしこのクイーンズランド州のモートン海洋公園で適用されている船舶の制限速度への言及は、唐突感が否なめず、また米軍の船舶に対する制限速度の設定がどれだけ現実的なのか、ジュゴンへの影響を緩和するのに役立つのか非常に不透明である。

モートン湾海洋公園は、最長125Kmの地点をもち、3400㎢という広大な地域である。ラムサール条約に登録されている湿地も含まれ、海洋国立公園、保全公園、生息地保護区、一般利用の4種類のゾーニングが設定されている。つまり、環境保全への取組みという点から、米軍基地建設予定地の辺野古/大浦湾の現状とは大きく異なるといえる。

またそこには約600〜800のジュゴンが棲息しているといわれており、ジュゴンと亀の保全のために、船舶の制限速度を設けた2種類の地域「GO slow area for dugongs and turtles」がある。そのうちの一つが、8メートル以上の船舶に対して、10ノットの制限速度を設けている地域「Go slow area for dugongs and turtles(>8m)」である。ただしこのGo slow area for dugongs and turtles(>8m)を利用する船舶は、殆どやエコツアーや地域の人々の移動のための船舶であり、沖縄防衛局が予定している大型の燃料輸送船などは含まない。(もう一つの制限区域「Go slow area for dugongs and turtles」では、船舶はoff the plane or in displacement modeで航行しなければならず、エンジン動力のウォータースポーツ(motorized water sports)は禁止されている)。

沖縄防衛局は、どのような根拠でこの「モートン湾海洋公園」の10ノット制限を、
基地の存在・供用時の米軍の船舶に対して設定使用としているのか。運用される米軍船舶の大きさや数、航行の頻度やルートの情報も含めて、アセス審査会は検証して頂きたい。

さらには、もしこの10ノットの速度制限を参考にして制限速度を設定するのならば、なぜ工事期間中の工事船舶についても設定しないのか。もし設定したならば、工事期間にどのような影響がでるのかも検証して頂きたい。



以上の2点を検証するだけでも、いかにこの評価書の予測・評価が「基地建設ありき」で作成されているかが分かるであろう。

私はこのアセスから導き出される正しい答えは一つであると考える。それは、1)新たなる米軍基地建設は、ジュゴンを含む豊かな環境やそこに住む人々に多大なる影響を与える。2)それゆえ基地は造らせることはできない。

環境アセス審査委員会は、アセスの科学性と民主性の柱にのっとり、その威信をかけて、正しい答えがでるまで、幾度も幾度も沖縄防衛局にアセスのやり直しを突きつけるべきだと考える。

以上

ジュゴン保護キャンペーンセンター 国際担当
沖縄・生物多様性市民ネットワーク 事務局長
吉川 秀樹





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Posted by 沖縄BD at 17:23│Comments(0)
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