ジュゴンとマナティの研究書はジュゴン訴訟から始まっている!

2013年01月24日/ 辺野古アセス

 ジュゴンが国際学会でヘレン・マーシュ博士の講演に(2012.7)で、予告しましたが、ジュゴン研究者の第一人者であるヘレン・マーシュが編著者の一人である Helene Marsh, Thomas J. O'Shea and John E. Reynolds III eds. Ecology and Conservation of the Sirenia: Dugongs and Manatees (Conservation Biology)(Cambridge University Press, 2011) のイントロダクションは、ジュゴン訴訟で始められています。

世界中のジュゴンやマナティーの研究者が誰でも手にとるであろうというこの本が、沖縄のジュゴンとジュゴン訴訟で始められているということは、ヘレン・マーシュ博士などからの、最大限のサポートであろうと思います。また、ジュゴン研究の第一人者たちに沖縄のジュゴン保護について働きかけてきた人々の成果であり、国境を越えての訴訟に勝訴するという前代未聞のことを成し遂げてきたこれまでの取り組みが結実したという意味を持っていると思います。

 しかし、このような国際的な支援や声を無視して、辺野古アセスは強行されようとしています。この国際社会の声を最大限に生かして、みんなで闘っていくために、沖縄のジュゴンに触れられた部分について、訳をつけたものをここにシェアしたいと思います。

ジュゴンとマナティの研究書はジュゴン訴訟から始まっている!

ジュゴンとマナティの研究書はジュゴン訴訟から始まっている!
IntroductionはAmazon.co.jpのこちらのなか見!検索で読むことができます。

以下、該当部分の翻訳です。
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Introduction
2008年、米国連邦裁判所の判事は、国防総省による、日本国沖縄島沖合への海兵隊基地建設計画は1966年に制定された米国国家歴史保存法に違反していると裁定した(Tanji 2008)。「ジュゴン対ゲイツ」として知られているこの決定の根拠は、基地建設計画が、本書のテーマである動物の一種であるジュゴンを保護するものとなっていないということであった。ジュゴンは日本の環境省によって絶滅危惧種に登録されており、沖縄の人々にとって高い文化的価値があることから、日本の天然記念物として日本の文化財に登録されている。対をなす訴訟(companion court case) である2005年の「ジュゴン対ラムズフェルド」*では、既にこの動物[ジュゴン]に、1966年に制定された国家歴史保存法が適用されることが保証され、動物が米国法下で歴史的に重要な「財産」であると述べることの正当性が確立されていた。
この判決の結果は、日本におけるジュゴンの将来を保証するものではない。そこでは、ジュゴンの将来はこの基地建設のみならず、複数の脅威下にあるのである(Marsh et al.2002; Ikeda and Mukai 2012; Chapter 8) 。実際、この判決は基地建設を阻止するものにはなりそうもない。
 しかし、この論争と、これにまつわる画期的な判決は、ジュゴンとマナティーといった動物(海牛目として知られている種)の文化的な重要性と、国家および国際的なレベルで文化的重要性という問題に取り組んでいくことの価値を浮き彫りにした(King 2006)。この判決は、表面上はジュゴンの保全とジュゴンにまつわる文化的な価値についてのものであるが、根元的な争いは、沖縄の米軍基地に対する日本の人々の二極化された姿勢に起因するものである。14の米軍基地が沖縄本島の18%を占め、2つの巨大な基地が住宅地に密接して存在している。基地を支持する人々にとっての、ジュゴン保護の優先度は低い(Tanji 2008)。
 沖縄ジュゴンをめぐっての争いは、一地域の保全の問題に、2ヵ国の環境団体、裁判所、政府を巻き込んでいるため、特別なものといえる。しかし、海牛目の保全をめぐる注目されている国内の争いにも、同様な[自然保護と人間の利益追求というような]文化の衝突があらわれている。マナティとジュゴンの生息他の中にある他の先進国において、最も明確な類似例は、米国とオーストラリアでおきている。フロリダマナティへの人間(活動)の管理をめぐる、保護運動のロビー、海洋産業、沿岸開発の利益間の争いは何十年にわたって悪化しており(Reynolds 1999; Tripp 2006)、なお継続中の論争の原因となっている。オーストラリアでは、特に、ジュゴンが世界遺産の価値を持つものの1つとして明確に登録されている(GBRMPA 1981)グレイト・バリア・リーフ地域(Marsh 2000)において、ジュゴン保護と漁業管理をめぐるアナログな争いがある。さらに、オーストラリアの先住民族の人々とより広い共同体間での、ジュゴンの伝統的な狩猟をめぐる文化的な争いが勃発寸前となっている(Marsh et al. 2004)。
 海牛目の大半の生息域を持つ開発途上国における争いは注目度は低いが、先進国の事例よりも、さらに扱いにくいものである。ジュゴンと3種のマナティーの生息域は5大陸の80の亜熱帯および熱帯の国々に渡っている。このような多くの国では、保護は食糧確保や急速な人口増加に関連する開発と衝突するものとしてみられる。海牛目保護のこの困難は世界の主要ないくつかの環境問題、人口増加、沿岸地域への人々の移動、熱帯及び亜熱帯の生息域、特に水生システムの破壊といった問題の帰結である。
 世界的に、海牛目の現存する全ての4種は絶滅の危機にあると考えられている(IUCN 2009; 表1)。それにも関わらず、政府が保護に向かって効果的なステップを踏み出すための、もしそれをしようとする政治的な意思があるならばだが、海牛目の生物学に関して、および個体数の脅威に関しての知識は、多くの他の種と比較して、蓄積されている。しかし、海牛目の生態系と保全の必要な情報の多くはアクセスが難しく、まとめられてこなかった。本書はこの欠けていた部分をうめようとする試みである。
(表1.1は略)

また、”Flagship species(象徴種)”の項目でも、触れられています(p.412)。

We began this book with a case study involving dugong conservation in Okinawa, Japan (Chapter 1.). That issue involves both social and political components, but the employment of the dugong as a cultural icon for conservation of both the species and the coastal environment of Okinawa gained global attention.
私たちは、この本を日本の沖縄におけるジュゴン保護を含む事例研究で始めた(1章)。この問題は社会的な要素と政治的な要素を含んでいる。しかし、種、および沖縄の沿岸環境の保全両方のためにジュゴンを文化的なアイコンとして用いていることは、世界的な関心を集めている。

*訳者注
2005年に下された中間命令を指す。
この決定の訳と解説は関根孝道.2005.「沖縄ジュゴン対ラムズフェルド事件 米国連邦地裁決定訳と解説―沖縄ジュゴンと法の支配」『総合政策研究』20号、pp.165-197.を参照。
http://hdl.handle.net/10236/8030
http://kgur.kwansei.ac.jp/dspace/bitstream/10236/8030/1/20%2c%20165-197.pdf
2008年の判決については同.2009「<外国判例研究>世紀のショー・ダウン! 沖縄ジュゴン対米国防省 : 米国国家歴史保存法第402条の域外適用に関する米国連邦地裁命令訳と解説」『総合政策研究』28号, pp.205-242.を参照
http://hdl.handle.net/10236/2803
http://kgur.kwansei.ac.jp/dspace/bitstream/10236/2803/1/20090911-4-26.pdf
(翻訳:河村雅美)



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Posted by 沖縄BD at 23:02│Comments(0)
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