ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書

2016年04月25日/ 環境監視等委員会/ 辺野古アセス/ 辺野古・大浦湾/ 沖縄防衛局

以前に掲載した「事後報告書あいびたんどー(ありました)」の続きです(前の記事はこちらから)。赤嶺政賢衆議院議員の事務所の働きで開示されたた『シュワブ(H25)水域生物等調査 報告書』。3月18日には沖縄防衛局のHPで掲載されるようになりました(同報告書はこちらから)。

今回は同報告書を通して改めて明確になったジュゴンの問題に焦点を当てます。そしてその問題について4月21日に日本自然保護協会と一緒に行った沖縄防衛局との交渉、そして22日にSDCCで行った防衛省交渉の内容を踏まえて書いていこうと思います。交渉での重要なポイントは、沖縄タイムスと琉球新報でも取り上げてもらいました。ありがとうございました(タイムスの記事はこちら。新報の記事はこちら)。さて論点は4点あるのですが、まずは「シュワブ(H25)報告書」の内容についての2点から。以下示す図や表はすべて沖縄防衛局の環境アセスや事後調査の評価書や報告書から抜粋したものです。

***訂正:4月27日にこの記事を掲載して以来『シュワブ(H27)水域生物等調査 報告書』(シュワブ(H27)報告書)と記述してきましたが、正しくは『シュワブ(H25)水域生物等調査 報告書』です。4月29日以下「シュワブ(H25)報告書」として記述し直しています。混乱の理由は、調査に関する年度表記が、調査の実施はH26年度(2014年度)、報告書があがったのがH27年3月であること(同報告書でも平成27年3月と記載)、報告書のタイトルは『シュワブ(H25)』となっていることでした。

1. 基地建設予定地で確認されたジュゴンの食跡と沖縄防衛局/防衛省の見解について
77本の食跡

沖縄防衛局の「シュワブ(H25)報告書」では、2014年4月から7月までに合計77本の食跡が辺野古崎大浦湾側の基地建設予定地で確認されたことが報告されています。4月に13本、5月に28本、6月にも28本、そして7月に8本の確認です。これら多くの食跡の確認は、日本自然保護協会とチームザンが同時期に同海域で行った調査の結果を明確に支持するものであり、基地建設予定地がジュゴンにとって重要な餌場であることを改めて示してくれたといえます。(日本自然保護協会の2014年度の報告はこちらから)。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書


ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書


一方防衛局が2014年7月にボーリング調査を着手した以降、7月の8本の確認を最後に、8月以降の調査では同調査海域でのジュゴンの食跡は確認されなくなくなっています。ボーリング調査のジュゴンへの影響が懸念されます。

沖縄防衛局/防衛省の見解
今回の交渉で私たちが沖縄防衛局と防衛省に求めたのは、1) 77本という食跡の数値についての見解と、2) ボーリング調査着手以降に食跡が確認されなくなった事実についての見解でした。

しかし沖縄防衛局も本庁の防衛省も、明確な見解を示しませんでした。ただ防衛局が環境アセスで示した「ジュゴンは嘉陽の海草藻場は餌場として使っている、しかし辺野古は使っていない、という見解に変わりない」「調査結果に基づいて可能な限りの保全対策を講じていく」と繰り返していました。

その回答を受けて私たちは、以下の沖縄防衛局のデータを示して、さらに二つの質問を沖縄防衛局に投げかけました(防衛省ではこのやり取りはありません)。
1) 環境アセスの現地調査の際(2008年3月〜2009年2月)に沖縄防衛局が嘉陽において確認した食跡の数は、下の表が示すように、最大で一月「38カ所」であり、最小は一月「6カ所」であった。今回「シュワブ(H25)報告書」で示された建設予定地における食跡の数は最大で一月「28本」であり、これは嘉陽の数値と比較してみても少ないとはいえないのではないか。これらの数値を防衛局はどう考えるのか。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書

*環境アセス調査の開始である2008年3月の調査は上の表では第9回調査にあたり、2009年2月の調査が第20回にあたる。

2) 辺野古海域(大浦湾側を含む)における食跡の調査は、沖縄防衛局、環境省、NGOが10年ほどのスパンで行ってきているが、「辺野古海域」で食跡が確認されていないのは、基本的には沖縄防衛局が環境アセスの現地調査を行った年度とその前後の予備/事後調査の年度である。この状況を沖縄防衛局はどう考えるのか。アセスの調査結果をもって「辺野古が使われていない」とはいえないのではないか。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書


*沖縄防衛局の事後調査では、2012年度、2013年度、2014年度にも辺野古海域でジュゴンの食後は確認されている。日本自然保護協が作成した2004年から2013年までの辺野古・大浦湾海域でのジュゴンの食跡の表はこちらから

これらの質問に対して、沖縄防衛局も防衛省も結局は、「ジュゴンは嘉陽の海草藻場を餌場として使っているが、辺野古は使っていない、という見解に変わりない」「調査結果に基づいて保全対策を講じていく」と繰り返すばかりでした。

勿論、対応して頂いた防衛局や防衛省の職員は「専門家」「科学者」でもなく、これまでの政府の見解を繰り返す以外の対応はできなかったと思います。ただ沖縄防衛局や防衛省が今後やらなければならないことは明確です。それは、1) 従来の「辺野古は使っていない」という見解を妥当だとする沖縄防衛局や防衛省の専門家に説明責任を果させること、2) 環境保全の助言を行う「環境監視等委員会」にきちんと「シュワブ(H25)報告書」を提示し、それに基づいて真摯な議論をさせることです。私たちも沖縄防衛局と防衛省に対してそのように求めました。しかし後で詳しく書きますが、沖縄防衛局は「シュワブ(H25)報告書」ができて約1年の間、環境監視等委員会に対して同報告書を提示していません。今後、環境監視等委員会がどのように同報告書を検証し、対応するのかが注目されます。

2. 大浦湾はどこへいった?
基地建設予定地である辺野古・大浦湾でジュゴンが生息することを認めたくない沖縄防衛局や防衛省。そのために講じてきた沖縄防衛局の手法の一つが、調査結果を報告書にまとめる段階での海域の分類の操作処理です。この手法については、2009年に「辺野古沖からジュゴンが消えた!?」というタイトルで新聞で取り上げてもらい、また山内徳信参議会議員に国会でも追求してもらいました(山内徳信議員と防衛省のやりとりはこちらから)。これは、環境省の調査で、宜野座沖から辺野古沖へ移動し、辺野古沖で回遊していたジュゴンを、沖縄防衛局がアセスの準備書のなかで「宜野座沖」のジュゴンとして分類し、「辺野古沖からジュゴンを消した」問題です。

シュワブ(H25)報告書
今回の「シュワブ(H25)報告書」でも似たような手法が使われていると思います。なぜなら、防衛局はジュゴンの目視確認調査の結果を表や概要でまとめるにあたり、大浦湾で確認されたジュゴンをすべて「嘉陽海域」で確認されたと分類しているからです。

例えば下の図で示されている2014年5月21日に確認されたジュゴンの扱いです。図で分かるように、一頭は「嘉陽海域」で確認され、もう一頭は大浦湾で確認されています。図の説明表記も「嘉陽海域」「大浦湾」となっています。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書



しかしこれが下の表になると、確認海域は2頭とも「嘉陽海域」で確認されたとまとめられています。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書



ちなみに「シュワブ(H25)報告書」における確認海域には、「大浦湾」という海域分類は存在しません。あるのは「嘉陽海域」と「古宇利島海域」だけです。

環境アセス評価書でもそうだった、、。
この分類の問題は、環境アセスの「評価書」に遡ってもみることができます。例えば、2008年9月10日の環境アセスの現地調査で、大浦湾のど真ん中で確認されたジュゴン。これは評価書の以下の図でも「嘉陽沖」で確認されたジュゴンとして扱われています。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書


そして「評価書」の数年に渡るジュゴンの確認表でも「嘉陽沖」のジュゴンと扱われています。ちなみにこの表でも大浦湾はありません。あるのは、「嘉陽沖」「辺野古沖」「金武湾〜宜野座沖」「古宇利島沖」「その他の海域」だけです。

ジュゴンの食跡は確認、でも大浦湾はどこへいった?:シュワブ(H25)報告書



大浦湾を嘉陽海域に含めてまとめると、確かに「ジュゴンは嘉陽海域を利用している、辺野古はあまり利用していない」という主張がやり易くなるのかもしれません。しかし大浦湾と嘉陽海域は別のものとして分類され、分析されるべきです。

沖縄防衛局/防衛省の対応
さて今回の沖縄防衛局と防衛省の交渉では、1)なぜこのような海域の分類になるのか。大浦湾と嘉陽海域は違うのではないか。2)このような分類を用いて、ジュゴンが辺野古を使っていないとする議論は問題ではないか、という質問を投げました。

防衛局は、アセスの評価書や補正評価書、シュワブ(H25)報告書を含む事後調査の報告書でも、「図では大浦湾も示している」「細かい記述では大浦湾と書いている」と回答していました。しかし、なぜ大浦湾を嘉陽海域に含めるのかということについては、防衛局も防衛省も何も答えられませんでした。というか、困っていたと思います。

今回対応して頂いた防衛局や防衛省の職員が、海域の分類について見解を述べることができなかったのはしょうがないと思います。科学的かつ論理的根拠が見つけにくい分類の仕方だからです。今後、防衛局と防衛省は、1) 環境アセスの評価書/補正評価書や事後調査の報告書において、大浦湾で確認されたジュゴンはすべて大浦湾での確認と分類し直すこと、2) その海域の分類に基づいて、基地建設のジュゴンへの影響を評価すること、3) そしてそれをきちんと環境監視等委員会や米軍に報告して議論してもらうことが必要です。私たちも防衛局と防衛省に対してそのように求めました。

沖縄防衛局の環境アセスや事後調査の報告書において、まとめの表や海域分類から消えた「大浦湾」。もしそれが許されるならば、「大浦湾わんさかパーク」という地域施設の名称や、「大浦湾生き物マップ」というブックレットのタイトルも、「嘉陽海域わんさかパーク」や「嘉陽海域いきものマップ」に変えないといけないのではないか、と突っ込みたくなるのは私だけではないでしょう。

ひとまずここまで。
H.Y.





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Posted by 沖縄BD at 19:32│Comments(0)
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