防衛局交渉より:出てこない事後調査報告書(まーにあいんばーがやー?)
2016年03月01日/ 辺野古/ ジュゴン訴訟/ 辺野古アセス/ 辺野古・大浦湾/ 沖縄防衛局
去った1月25日にジュゴン保護キャンペーンセンターが行った沖縄防衛局との要請交渉の報告の第3回目です。僕はSDCCのメンバーでもあるので要請交渉に参加しました。そして沖縄BDのブログで2回にわたり、ジュゴンの保全措置としての「海草藻場の移植」や「ジュゴン監視・警告システム」問題点について書きました。
今回は交渉において私たちが追求した、沖縄防衛局の平成26年度(2014年度)の「事後調査」に関する報告と考察です。米国の第9巡回控訴裁判所で控訴の手続きに入っている「ジュゴン訴訟」との関連も含めて書きます。
©環境省
2014年度(H26年度)の事後調査の報告書を出してこない沖縄防衛局
沖縄防衛局は、環境アセスの終了後も、ジュゴンを含む水域生物や陸上生物について「事後調査」や「環境監視」を継続して行っています。これは環境アセスの補正評価書において「予測の不確実性の程度が大きい場合」や「効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講じる場合」に、工事中や供用後の環境状態を把握するためのものとして行われているものです(環境アセス「評価書」の事後調査の部分はこちらから)。
「評価書」で示された事後調査の重要性は、その後開催された「有識者研究会」でも再確認され(有識者研究会の最終報告書はこちらから)、有識者研究委員会の助言が環境アセス「補正評価書」にもある程度反映されました。そして、仲井真前知事が基地建設のための埋め立てを承認(沖縄県と国が裁判で争うことになっている原因)した後も、その承認の条件として設置された「環境監視等委員会」により、事後調査等の結果を反映させながら環境保全の措置が講じられることになっています。
今回の要請交渉で私たちが沖縄防衛局に追求したのは、なぜ2014年度の事後調査の報告書がこの段階まで出てこないのか、ということ。2014年といえば、その5月〜7月にはチームザンやNACS-Jにより基地建設/埋め立て予定地やその周辺の海草藻場で100本以上のジュゴンの食み跡が確認された年です(NACS-Jの報告はこちらから)。それゆえその年の防衛局の事後調査でも同じようにあるいはそれ以上に食み跡が確認さているはずです。その事後調査の報告書がなぜでてこないのか、早く公開してもらいたい、という追求でした。
しかし防衛局は、まだ「報告書の内容を精査中」「調整中」ということで、公開する段階ではないと回答。防衛局は同じ回答を2015年6月からSDCCや他の環境団体に対して繰り返しています。
確かに建設予定地やその周辺の海草藻場でジュゴンの食み跡が100本以上確認したという内容の事後調査報告書は、基地建設を強行したい防衛局に対しては非常に都合の悪いものかもしれません。同域のジュゴンによる利用は限定的である、それゆえ基地を作ってもジュゴンに影響がない、という防衛局のアセスの結論や予測に全く矛盾するものですから。
しかし事実は事実として示し、それに基づいて、環境アセスの予測の問題点を認め、保全措置や計画自体の変更に反映させるべきです。それが事後調査の意義であるはずです。
ちなみに、環境アセスの調査後に行われた水域生物、陸上生物についての事後調査についての報告書は、調査の行われた年度の年度末3月から9ヶ月後の12月には提出されています。以下を参照して下さい。
事後調査の「報告書」が提出された年と月
また「シュワブ(H24)水域生物調査等調査 報告書」については、実際の調査の期間は平成25年(2013年)の4月から11月まで行われていますが、その調査報告書は2014年3月付けで出されています。また2014年5月には防衛局のHPで掲載されています(シュワブ(24)の報告書はこちらから)。
以上を考えると、2016年のこの段階で、2014年に行われた事後調査の報告書がまだ出てこないのは、何か裏があるのではと考えてしまいます。
2014年度の事後調査を米軍へ提出しているのかについて回答しない沖縄防衛局
沖縄防衛局が行う事後調査のなかでも、ジュゴンについての事後調査の結果については、米軍と情報を供用することが大変重要です。なぜなら米軍側も、もし新基地建設/埋め立て予定地やその周辺でジュゴンの常在が確認されれば、米軍は日本政府と協議をし、ジュゴンへの影響を軽減するための措置をとる、と明言しているからです。これは米国のジュゴン訴訟と関係しています(下の部分で少し詳しく説明します)。
そこで今回の要請交渉において私たちは、沖縄防衛局は2014年度の事後調査の報告を米軍に行ったのかを追求しました。ジュゴンの食み跡が100本以上も確認されてたことを沖縄防衛局として米軍に報告しているのか、報告書を提出しているのか、という追求です。
防衛局の職員は、この問題は米国政府との関係があるので、防衛省本庁に問い合わる必要がある、本庁に問い合わせて、回答するのかどうかも含めて協議して、私たちに回答するとのことでした。
勿論上記したように、日本国内においても2014年度の事後調査の報告書は出ていないのが実状です。しかし、沖縄防衛局は国内では出していない資料や報告書も米軍には提出していることがこれまでもありました。実際、上記した「シュワブ(H24)水域生物等調査 報告書」は、私たち市民が目にする以前に米軍に提供されていました。この報告書では、ジュゴンの食み跡が基地建設/埋め立て予定地で、2013年3月に5本、5月に12本、そして11月に2本確認されたことが報告されています。これは「辺野古や大浦湾のジュゴンの利用は限定的」という環境アセスの結論に大きな疑問を呈するものでした。
その報告書の存在を私たちが知ったのは、米軍の文書「「U.S. Marine Corps. Recommended Findings」(2014年4月)を通してでした。その後、防衛局に報告書が存在の確認を要請し(その時も回答なし)、2014年5月に防衛局のHPに掲載されるという経緯でした。
いずれにせよ、米軍がシュワブへの入構許可書を沖縄防衛局に対して発行し、工事が強行されるなか、また米国でのジュゴン訴訟が控訴の手続きに入っている中、2014年度の事後調査の結果が米軍に報告されているのかどうかは非常に重要な問題です。
これは私たち市民や環境団体だけではなく、県、県議会、国会議員も、追求していくべき問題だと考えます。
沖縄防衛局の「事後調査」と米軍:ジュゴン訴訟との関わり
米国カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁で争われてきた「ジュゴン訴訟」。2003年に提訴され、現在も米国の第9巡回控訴裁判所で控訴の手続きが進行中です。数ある米国の環境訴訟のなかでも最も長い訴訟の一つとなっています。
2014年12月 サンフランシスコ連邦地裁前で原告を支援する集まり
裁判は2008年1月の判決により、新基地の建設と運用には国防総省(米軍)も責任があることが確認され、国防総省は、国家歴史保存法のもと、基地建設や基地の運用によるジュゴンへの影響を検証することを裁判所から命じられました。その後検証の方法について原告と米国防総省が議論を行いましたが、合意に達せず、その後暫くの間手続きが止まっていました。
しかし2014年4月に国防総省が「U.S. Marine Corps. Recommended Findings」という文書を提出することによって基地建設が具体的に動きだします。国防総省はFindingsのなかで「ジュゴンへの影響の検証は終わった」「ジュゴンに影響はないという結論に至った」とし、新基地建設/埋め立て工事を可能にするシュワブへの入港許可証を沖縄防衛局に対して発行し始めます。それが現在の工事の強行を可能にしています。原告の控訴は、ジュゴンへの影響の検証手続きが不十分であることが論点となっています。
このFIndingsのなかで言及されているのが沖縄防衛局の「事後調査」によるジュゴンの情報(原文ではmonitoring information)です。日本政府の事後調査により得られジュゴンの情報について、米軍が要求し、検証することになっています。そしてその情報により、基地建設/埋め立て予定地にジュゴンが常在していると判断された場合、日本政府と協議を行う事を明記しています。以下Finingsの原文からの抜粋と、そしてその部分の日本環境法律家連盟による試訳です。
Construction activities will occur over multiple years, and the USMC feels that it is prudent to request and review monitoring information collected by the GoJ during construction and initial operations. Should the GoJ’s monitoring of the area during construction reveal the regular presence of Okinawa dugongs in Henoko Bay, the USMC will consult with GoJ and adaptively manage its operations to minimize any adverse effects on Okinawa dugongs. In general, USMC agrees to implement the best management practices specified in the Japan Environmental Governing Standards (JEGS) for managing endangered or threatened species as additional protection for the Okinawa dugong.
建設活動は多年に亘って行われるので、海兵隊は、日本政府が建設中および運用初期に収集するモニタリング情報を要請し検討するのが賢明だと感じている。日本政府が建設中に行う対象エリアのモニタリングにより、辺野古湾に沖縄ジュゴンが常在していることが判明した場合、海兵隊は、日本政府と相談の上、ジュゴンへの悪影響を最小限に抑えるために、状況に応じて運用を管理する。一般的に、海兵隊は、絶滅危惧種もしくは絶滅の恐れがある種の管理に関する日本環境管理基準 (JEGS) に規定する最適管理手法を、沖縄ジュゴンの追加保護策として実施することに同意する。
筆者 吉川秀樹
今回は交渉において私たちが追求した、沖縄防衛局の平成26年度(2014年度)の「事後調査」に関する報告と考察です。米国の第9巡回控訴裁判所で控訴の手続きに入っている「ジュゴン訴訟」との関連も含めて書きます。
©環境省
2014年度(H26年度)の事後調査の報告書を出してこない沖縄防衛局
沖縄防衛局は、環境アセスの終了後も、ジュゴンを含む水域生物や陸上生物について「事後調査」や「環境監視」を継続して行っています。これは環境アセスの補正評価書において「予測の不確実性の程度が大きい場合」や「効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講じる場合」に、工事中や供用後の環境状態を把握するためのものとして行われているものです(環境アセス「評価書」の事後調査の部分はこちらから)。
「評価書」で示された事後調査の重要性は、その後開催された「有識者研究会」でも再確認され(有識者研究会の最終報告書はこちらから)、有識者研究委員会の助言が環境アセス「補正評価書」にもある程度反映されました。そして、仲井真前知事が基地建設のための埋め立てを承認(沖縄県と国が裁判で争うことになっている原因)した後も、その承認の条件として設置された「環境監視等委員会」により、事後調査等の結果を反映させながら環境保全の措置が講じられることになっています。
今回の要請交渉で私たちが沖縄防衛局に追求したのは、なぜ2014年度の事後調査の報告書がこの段階まで出てこないのか、ということ。2014年といえば、その5月〜7月にはチームザンやNACS-Jにより基地建設/埋め立て予定地やその周辺の海草藻場で100本以上のジュゴンの食み跡が確認された年です(NACS-Jの報告はこちらから)。それゆえその年の防衛局の事後調査でも同じようにあるいはそれ以上に食み跡が確認さているはずです。その事後調査の報告書がなぜでてこないのか、早く公開してもらいたい、という追求でした。
しかし防衛局は、まだ「報告書の内容を精査中」「調整中」ということで、公開する段階ではないと回答。防衛局は同じ回答を2015年6月からSDCCや他の環境団体に対して繰り返しています。
確かに建設予定地やその周辺の海草藻場でジュゴンの食み跡が100本以上確認したという内容の事後調査報告書は、基地建設を強行したい防衛局に対しては非常に都合の悪いものかもしれません。同域のジュゴンによる利用は限定的である、それゆえ基地を作ってもジュゴンに影響がない、という防衛局のアセスの結論や予測に全く矛盾するものですから。
しかし事実は事実として示し、それに基づいて、環境アセスの予測の問題点を認め、保全措置や計画自体の変更に反映させるべきです。それが事後調査の意義であるはずです。
ちなみに、環境アセスの調査後に行われた水域生物、陸上生物についての事後調査についての報告書は、調査の行われた年度の年度末3月から9ヶ月後の12月には提出されています。以下を参照して下さい。
事後調査の「報告書」が提出された年と月
また「シュワブ(H24)水域生物調査等調査 報告書」については、実際の調査の期間は平成25年(2013年)の4月から11月まで行われていますが、その調査報告書は2014年3月付けで出されています。また2014年5月には防衛局のHPで掲載されています(シュワブ(24)の報告書はこちらから)。
以上を考えると、2016年のこの段階で、2014年に行われた事後調査の報告書がまだ出てこないのは、何か裏があるのではと考えてしまいます。
2014年度の事後調査を米軍へ提出しているのかについて回答しない沖縄防衛局
沖縄防衛局が行う事後調査のなかでも、ジュゴンについての事後調査の結果については、米軍と情報を供用することが大変重要です。なぜなら米軍側も、もし新基地建設/埋め立て予定地やその周辺でジュゴンの常在が確認されれば、米軍は日本政府と協議をし、ジュゴンへの影響を軽減するための措置をとる、と明言しているからです。これは米国のジュゴン訴訟と関係しています(下の部分で少し詳しく説明します)。
そこで今回の要請交渉において私たちは、沖縄防衛局は2014年度の事後調査の報告を米軍に行ったのかを追求しました。ジュゴンの食み跡が100本以上も確認されてたことを沖縄防衛局として米軍に報告しているのか、報告書を提出しているのか、という追求です。
防衛局の職員は、この問題は米国政府との関係があるので、防衛省本庁に問い合わる必要がある、本庁に問い合わせて、回答するのかどうかも含めて協議して、私たちに回答するとのことでした。
勿論上記したように、日本国内においても2014年度の事後調査の報告書は出ていないのが実状です。しかし、沖縄防衛局は国内では出していない資料や報告書も米軍には提出していることがこれまでもありました。実際、上記した「シュワブ(H24)水域生物等調査 報告書」は、私たち市民が目にする以前に米軍に提供されていました。この報告書では、ジュゴンの食み跡が基地建設/埋め立て予定地で、2013年3月に5本、5月に12本、そして11月に2本確認されたことが報告されています。これは「辺野古や大浦湾のジュゴンの利用は限定的」という環境アセスの結論に大きな疑問を呈するものでした。
その報告書の存在を私たちが知ったのは、米軍の文書「「U.S. Marine Corps. Recommended Findings」(2014年4月)を通してでした。その後、防衛局に報告書が存在の確認を要請し(その時も回答なし)、2014年5月に防衛局のHPに掲載されるという経緯でした。
いずれにせよ、米軍がシュワブへの入構許可書を沖縄防衛局に対して発行し、工事が強行されるなか、また米国でのジュゴン訴訟が控訴の手続きに入っている中、2014年度の事後調査の結果が米軍に報告されているのかどうかは非常に重要な問題です。
これは私たち市民や環境団体だけではなく、県、県議会、国会議員も、追求していくべき問題だと考えます。
沖縄防衛局の「事後調査」と米軍:ジュゴン訴訟との関わり
米国カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁で争われてきた「ジュゴン訴訟」。2003年に提訴され、現在も米国の第9巡回控訴裁判所で控訴の手続きが進行中です。数ある米国の環境訴訟のなかでも最も長い訴訟の一つとなっています。
2014年12月 サンフランシスコ連邦地裁前で原告を支援する集まり
裁判は2008年1月の判決により、新基地の建設と運用には国防総省(米軍)も責任があることが確認され、国防総省は、国家歴史保存法のもと、基地建設や基地の運用によるジュゴンへの影響を検証することを裁判所から命じられました。その後検証の方法について原告と米国防総省が議論を行いましたが、合意に達せず、その後暫くの間手続きが止まっていました。
しかし2014年4月に国防総省が「U.S. Marine Corps. Recommended Findings」という文書を提出することによって基地建設が具体的に動きだします。国防総省はFindingsのなかで「ジュゴンへの影響の検証は終わった」「ジュゴンに影響はないという結論に至った」とし、新基地建設/埋め立て工事を可能にするシュワブへの入港許可証を沖縄防衛局に対して発行し始めます。それが現在の工事の強行を可能にしています。原告の控訴は、ジュゴンへの影響の検証手続きが不十分であることが論点となっています。
このFIndingsのなかで言及されているのが沖縄防衛局の「事後調査」によるジュゴンの情報(原文ではmonitoring information)です。日本政府の事後調査により得られジュゴンの情報について、米軍が要求し、検証することになっています。そしてその情報により、基地建設/埋め立て予定地にジュゴンが常在していると判断された場合、日本政府と協議を行う事を明記しています。以下Finingsの原文からの抜粋と、そしてその部分の日本環境法律家連盟による試訳です。
Construction activities will occur over multiple years, and the USMC feels that it is prudent to request and review monitoring information collected by the GoJ during construction and initial operations. Should the GoJ’s monitoring of the area during construction reveal the regular presence of Okinawa dugongs in Henoko Bay, the USMC will consult with GoJ and adaptively manage its operations to minimize any adverse effects on Okinawa dugongs. In general, USMC agrees to implement the best management practices specified in the Japan Environmental Governing Standards (JEGS) for managing endangered or threatened species as additional protection for the Okinawa dugong.
建設活動は多年に亘って行われるので、海兵隊は、日本政府が建設中および運用初期に収集するモニタリング情報を要請し検討するのが賢明だと感じている。日本政府が建設中に行う対象エリアのモニタリングにより、辺野古湾に沖縄ジュゴンが常在していることが判明した場合、海兵隊は、日本政府と相談の上、ジュゴンへの悪影響を最小限に抑えるために、状況に応じて運用を管理する。一般的に、海兵隊は、絶滅危惧種もしくは絶滅の恐れがある種の管理に関する日本環境管理基準 (JEGS) に規定する最適管理手法を、沖縄ジュゴンの追加保護策として実施することに同意する。
筆者 吉川秀樹
Posted by 沖縄BD at 16:12│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。