沖縄市サッカー場台風9号対策問題について
【経緯】
台風9号が沖縄を来襲時の2015年7月10日、沖縄・生物多様性市民ネットワーク(沖縄BD)のメンバーが沖縄市サッカー場、元駐車場部分掘削部において、雨水対策用のブルーシートが剥がれて土壌がむきだしになった窪地に溜まった濁水がポンプで吸い上げられ、外にそのまま排水されていたのを目撃した。翌日から週末に入ったので、行政機関に連絡ができず、SNSなどで拡散し、沖縄BDからは沖縄市議やメディアに連絡をした。
掘削後の現場管理については、市議会議員から「汚染された土や水が周囲に広がるのではという懸念」が示され、沖縄BDからの沖縄市陳情「沖縄市サッカー場調査についての陳情」(2015年6月13日. 議員配布)でも指摘されていた問題である。
沖縄BDによる7月13日の沖縄防衛局返還対策課長への電話での聞き取りによると、事前の県、市との3者で決めた対策ではブルーシートが剥がれたらパイプでの汲み出しは止めるということになっていたとのことである(この間の台風対策の協議がどのようになされていたかは不明)。
しかし、上述のとおり、7月10日、ブルーシートが剥がれていても、ポンプアップしてそのまま排水されていた場面が目撃、記録されている。
沖縄防衛局の報告によると、7月10日に排水は中止されたとのことである(排水の中止がどのようにされたのかは明らかにされていない)。
週明けの7月13日に、防衛局、県、市で現場視察と3者協議が行われた。
7月16日には、沖縄市長から沖縄防衛局に汚染拡散防止対策の要請「沖縄市サッカー場における汚染拡散防止策について(要請)」が行われた。
同日、沖縄防衛局による排水予定の水のサンプリングが実施された。
7月24日は、沖縄防衛局により、沖縄市議会(基地に関する調査特別委員会)の現地視察と説明会が実施された。廃棄物混じり土の台風対策、今後使用される遮水シート、廃棄物混じり土(底面土壌)の台風対策について、くぼ地に溜まった雨水の取り扱いについて等の説明が行われた。
8月4日、沖縄防衛局のウェブサイトに「お知らせ」(以下、「お知らせ」)として、廃棄物混じり土の分析結果と掘削部に溜まった雨水の分析結果について、発表された。通常、調査結果が発表されると行われるメディアへの沖縄防衛局へのレクチャーはなかった。
8月5、6日の2日間、沖縄防衛局は排水を実施した(4日のお知らせには、「4日からサッカー場西側の排水路より排水します」とあるが、実際は5,6日の2日間であった)。
【問題点】
❍汚染拡大防止の対策
・汚染拡大防止、台風対策についての対応が作成されていたかどうか、作成されていても、十分なものであったか、現実の対応を見ると、疑問点が多い。週末に連絡できるところもなく、緊急連絡先がなかった危機管理体制も問題である。
・「お知らせ」では「掘削部については、ブルーシートで養生した上で、溜まった雨水を排水していましたが」とあるが、台風前の通常の排水時の対応も十分な安全対策をとっていたかは疑問である。排水の際に、「雨水」であったかどうか、採水・測定して確認していたのか明らかでない。もし採水・水質分析をせずに「雨水」と決めつけて排水していた場合は、問題である。
汚染拡散防止策については、独立行政法人 土木研究所編「建設工事で遭遇するダイオキシン類汚染土壌対策マニュアル[暫定版]」には以下のように記してある。
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”5.5 留意点
(略)
(d)排水処理
施工に伴い排出される排水や、ダイオキシン類汚染土壌が含まれる可能性がある表流水等に関しては、適切な処理を行い、河川管理者および下水道管理者との協議を経て定めた基準を満足する状態を確認して放流すること。
排水処理手法は、水質分析および処理試験を行い、その結果に基いて適切な方式を選定する。具体的な排水の処理手法としては、活性炭や人工膜(図5-6)などによるろ過処理、凝集剤や凝集助剤による凝集沈殿処理、紫外線などによる化学分解処理などがある。”
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上記の引用部にもあるように、協議を経て基準を定め、水質分析等を行って適切な処理を公開して決定する過程が必要であったと考えられる。
・窪地は、たまり水から高濃度のダイオキシンが検出された部分であり、掘削部の管理、養生の処理として、措置は予防原則的に慎重に考えるべきであったと考えられる。
台風によりブルーシートが剥がれ、土壌がむき出しになることは予測可能な事態である。また、濁水を何の処置もせず、人が触れる可能性のある水路に排水することは杜撰な対処であると考えられる。また、週末の危機管理体制も不十分であったのにも関わらず、ブルーシートが剥がれたらパイプの汲み出しを中止するという対応を想定していたことも現実的な対応ではない。
このような判断について、沖縄県、沖縄市がどのような知見をもって、沖縄防衛局の提示した措置が妥当であると判断したのか、当初の汚染拡大防止措置の選定、対策を考えていたのか、各々の責任体制を含めて検証する必要がある。
❍事後対策
・台風9号の対応の問題発覚後、予防的に即時に市民、メディアへこれまでの経過と今後の予定のアナウンスをする必要があったと考えられる。
(周辺環境調査をすぐに実施する必要があったのではないかと考えられる。)
❍「掘削部雨水調査」
・調査の目的や採水の状況などが「お知らせ」と調査報告に明確に書かれておらず、調査の意味が曖昧な書き方となっている。調査目的は、中断していた排水を再開するためのものであるようだが、限定された目的であることを述べていない。
「7月16日、汚染の有無を確認するため、サンプリングを行い」と書かれているが、ポンプアップして濁水を排水していた事実、排水中断までの濁水の値については測定できていないことが記述されていないことも誤解を含む。限定された目的の調査であるにもかかわらず、全ての懸念が払拭された印象操作をしているように見られるような書き方は問題である。
・基準値の取り方についても、問題がある。
池田こみち氏から、以下の3点が指摘されている。
(1)沖縄防衛局は、採水したサンプルを「排水基準」で安全確認をしているが、そのまま人が水に触れる河川に流すのであるので、公共用水域に適用する環境基準の「水質」の基準1pg-TEQ/L以下を用いるべきであると考える。
(「ダイオキシン類による大気の汚染、水質の汚濁(水底の底質の汚染を含む)及び土壌の汚染に係る環境基準(改正環境省告示第46号平成14年7月22日)の環境基準の「4. 水質の汚濁(水底の底質の汚染を除く。)に係る環境基準は、公共用水域及び地下水について適用する」」
(2)日本の環境水(公共用水域)の基準は人が口に入れることを前提に1pg-TEQ/Lが基準となっているが、アメリカ環境保護庁(EPA)では、人の健康を考慮した場合、生物濃縮にも配慮し、0.005pg-TEQ/L(有機物と水の両方を摂取した場合)、0.0051pg-TEQ/L(有機物だけの場合)と極めて低いことからしても、杜撰な対応である。
(3)沖縄県の公共用水域の水質中のダイオキシン類濃度と比較しても、高いことに留意する必要がある。
平成25年度 ダイオキシン類環境調査結果(
https://www.env.go.jp/air/report/h26-02.pdf)をみると、公共用水域の水質中のダイオキシン類の濃度は、以下の通り全地点の平均が0.19と低くなっている。1pgを超えた地点は極僅かである。
2)公共用水域水質
公共用水域の水質については、1,537 地点で調査が行われ、これらの地点のダイオキシン類濃度の平均値は 0.19pg-TEQ/L、濃度範囲は 0.013~3.2pg-TEQ/L であり、28地点(地点超過率:1.8%(河川 25 地点、湖沼3地点))で水質環境基準(基準値;年間平均値1pg-TEQ/L 以下)を超過していた。
継続調査地点(全国 722 地点)におけるダイオキシン類濃度の平均値は、平成 25
年度は 0.22pg-TEQ/L であり、前年と概ね同程度であった(表3)。継続地点の濃度
分布を図3、平均値の経年変化を図4に示した。
沖縄県内についてみると、以下の通り低い値である。(単位:pg-TEQ/L)
このような高い値の水を何の処置もとらず、排水することは杜撰な処置である。
また、排水路の位置図や、排水からの水の経路などについても明示する必要がある。
❍安全の確認
「安全が確認されたことから」(「お知らせ」)の根拠について、文章で丁寧に説明するべきである。
また、沖縄県、沖縄市と共同で安全の確認についてはアナウンスを作成し、影響のある近隣市町村などにもこれまでの過程などを含めて、告知すべきである。
❍排水のタイミング
結果発表と排水の日を同日にしていることは問題である。3者協議の議論も公表されず、市議や住民などへの説明をし、アナウンスをしてから排水するべきである。
❍結果報告、アナウンスの方法
通常はウェブへのリリースとメディアへのレクを行うが、今回はメディアへのレクもなかった。市民の生活領域へ影響を及ぼし、市民への不安を生じさせたことでありながら、書類でのリリースのみにしたことは問題である。メディアの質疑応答を受け、最低でも市議へ説明をすべきである。
❍作業員の安全管理の問題
以前から問題化されていたが、8月16日午前に、窪地の濁水に膝まで浸かり、手袋もしていない作業員の姿が確認・記録されている。
作業員の安全管理の責任をどこがいかに果たしているのか不明である。
【根本的な問題として】
❍沖縄県の位置づけ
周辺環境調査や、安全確認についてより積極的な役割を果たすべきである。2015年1月の調査結果から、排水口の水質調査についても、沖縄防衛局が実施するようになっているが、沖縄県はその後、きちんとチェックしておらず、分析の齟齬があっても議論をしていない(pHの高さの原因)(環境保全部班長玉城氏への聞き取り)。
また、沖縄防衛局の杜撰な対応にゴーサインを出していた責任も問われる。
今回も、沖縄防衛局への対応について県としては何もできないような言動がなされており、沖縄県としての責任のありようが非常に不明確である。また、懸念を示す市民への対応に丁寧な回答をしないことへの不満も市民から示されている。
❍沖縄防衛局、沖縄県、沖縄市の3者協議の形骸化が著しい。緊張感を持たせるためにも、市民の目をいれることが必要である。責任の所在を明確にし、政策過程の検証をするためにも、3者協議の公開、議事録の公開、住民への経過報告、説明会の開催などを早期に実現することが急務である。
❍リスクコミュニケーション
ウェブでの公開とメディアレクばかりでなく、住民との意思疎通をはかりながらのコミュニケーション過程の形成を図ることが必要である。
以下のマニュアルを参照:
・環境省「自治体のための化学物質に関するリスクコミュニケーションマニュアル」
・公益財団法人日本環境協会
「事業者が行う土壌汚染リスクコミュニケーションのためのガイドライン」
http://www.jeas.or.jp/dojo/business/promote/booklet/