世界自然遺産に関する陳情を提出しました

沖縄BD

2013年03月10日 15:20

 1月31日に奄美・琉球諸島が世界自然遺産の暫定リストに記載したことを受け、沖縄BDで陳情書を県議会に提出しました。

 世界自然遺産の登録には、多くの解決しなければならない問題がありますが、沖縄BDの陳情書では米軍基地との関係に焦点を当てて書いています。登録に向けての取組みにおいて、米軍基地の存在や訓練に関して沖縄県はどのような見解を持ち、どのような取組みを行っているのか。その説明を求めています。

 また、今年1月に起こった高江のヘリ/オスプレイパッド建設現場での土砂崩落から明らかになった、環境保全の現制度・体制の不備にも触れています。さらに、これまで多くの市民が尽力してきて引き出したIUCNの勧告・決議についても、県は見解を示す必要があることも強調しています。


 沖縄BDはこの世界自然遺産への登録という過程を、沖縄の環境に関する米軍の影響について、関係者(行政、市民・住民、米軍等)が同じテーブルについてきちんと整理していく大切な機会だと捉えています。

 しかし同時に、世界自然遺産登録の審査を行う国際自然保護連合(IUCN)にとっても、沖縄の「基地問題」は取り扱いの難しい問題であることを理解しています。地政的側面と科学性が密接に関係する沖縄の状況にどのように対応していくか。IUCNの存在自体も厳しく問われているからです。

 とにかく、まずは沖縄自体が、この豊かな環境をどのように評価しているか、どれだけ環境保全へコミットしていけるのかを、しっかりと示していくことが必要です。その意味でも、今回の陳情は大切なステップだと考えています。
 
 県議会をつうじて、私たち市民・住民も、沖縄県の取り組みをみつめ、支え、ともに取り組んでいきたいと思います。
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2013年3月8日

沖縄県議会議長
喜納 昌春殿
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
沖縄県宜野湾市志真志4-24-7 セミナーハウス304
NPO法人「奥間川保護基金」事務所内
連絡先 吉川秀樹 (090-2516-7969)
              
奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録についての陳情


 2013年1月31日、日本政府は、ユネスコ世界自然遺産登録に向けて、奄美・琉球諸島を暫定リストに記載しました(参照1)。豊かな沖縄の自然を誇りとし、その自然との共生を切に望む私たちにとって、今回の暫定リストへの記載は大きな励みであり、沖縄県民そして地球市民としての責任を再確認させるものでした。今回の暫定リスト登録の背景には、沖縄県の取組みはもちろんのこと、環境省やその他の関係省庁の取組み、そして県民の取組みがあったことを私たちは認識しています。また世界遺産登録において候補地の評価を行う国際保護連合(IUCN)から、2000年に「やんばる[の森]を世界自然遺産候補地として検討すること」と、日本政府に対して勧告があったことも認識しています(参照2)。

 現在沖縄県は、環境省と協力し、積極的に奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録に向けて、ヤンバルクイナの保護やマングースの駆除など具体的な取組みを行っています。また、地方自治体、大学、NPO/NGO等とも協力し、シンポジウムを開催するなどの啓発活動も行っています。これらの取組みは、今後、保全担保措置としての国立公園化へと結びつくものと期待されており、これらの取組みは評価され、これからも多くの協力を得て推進されるべきだと私たちは考えます。

 一方、世界自然遺産登録に向けての大きな課題のである米軍基地の存在や訓練、そして新たな軍事基地・施設建設の建設については(参照3)、沖縄県がどのような認識をもっているのか、また米軍や防衛省とどのようなやりとりを行っているのか、未だに県民には見えていないのが現状です。2012年の12月7日の沖縄県議会第8回定例会議における玉城義和議員の登録に向けての課題に関する質問に対しても、沖縄県からの回答には、米軍の存在や訓練についての具体的な言及はありませんでした(参照4)。

 また、世界自然遺産登録に向けて重要な役割を果たすべき沖縄県の環境保全制度も、実質的な環境保全に繋がっているとは決していえないのが現状です。特に環境影響評価の制度については、泡瀬干潟の埋立て、やんばるの森における林道建設、辺野古・大浦湾における米軍基地建設、東村高江におけるヘリ/オスプレイパッド建設において、様々な問題が露呈されてきました(参照5)。現在、国の環境影響評価法の改正に伴い、環境影響評価条例が一部改正され、今回の県議会で決定される予定ですが、島嶼性や基地問題を含めた沖縄の現状に適した抜本的な改正がされているとはいえません。

 世界自然遺産登録に向けての取組みにおいて、米軍との調整および県の環境保全制度の改善が不可欠です。そのために沖縄県は、県民はもちろん、IUCNを含む国際社会からの協力を求めていかなければならないと考えます。そして、その協力を得るためには、まず沖縄県自らが、米軍施設や訓練に対する県としての認識と立場を明確にし、県の環境保全制度の真摯な見直しを行わなければならないと考えます。これらの点を踏まえ、以下陳情いたします。

1 世界自然遺産登録と軍事施設の関係についての基本認識と情報収集について
 ・奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録に向けての取組みにおいて、米軍基地の存在や
米軍の訓練がどのような影響をもつと考えるのか、沖縄県の認識を示すこと。
・ 軍事施設と世界自然遺産の登録地域との関係について(バッファーゾーンの設定などについて)、IUCNの基準や、これまでの登録例など、どのような情報を沖縄県は持っているかを示すこと。

2. IUCNの勧告・決議とIUCNへの対応について
・ IUCNは、やんばるの森における米軍のヘリ/オスプレイパッド建設については2度の、また辺野古・大浦湾における米軍基地建設については3度の勧告・決議を日米政府に対して行っているが、その勧告・決議についての沖縄県の見解を示すこと。
・ 先ほど沖縄県と環境省等が主催したシンポジウムにおいて講演を行ったIUCNのレスリー・モロイ氏は、沖縄における米軍基地全体の概要について知らなかったが(参照6)、このような情報をIUCNに伝えていくのは沖縄県ではどの部署が担当するのかを示すこと。

3. 環境保全措置・担保に関しての米軍との調整について
・ 環境保全措置・担保の一環として、日本政府、沖縄県、地元住民や市民と米軍との具体的な調整の場を設けること。現在そのような場の設置について具体的な案や計画があれば示すこと。
・ 環境保全措置・担保の一環として、沖縄県条例や日本環境管理基準(JEGS)があるが、米軍に遵守させるための県が現在行っている具体的な取組みと、その効果や課題についての県の見解を示すこと。(2013年1月に起きた高江ヘリ/オスプレイパッド建設地における土砂崩落のケースについて、米軍への提供区域への沖縄防衛局立ち入り許可要、沖縄県が保護に責任を持てない体制などについても言及すること)
・ 環境保全措置・担保の一環として、米軍による自然破壊行為などがあった場合、世界自然遺産のサンゴ礁に座礁した米海軍掃海艦にフィリピン政府が課したように(参照7)、罰則や補償の制度を米軍に対しても適用することを検討すること。現在そのような案や計画があれば示すこと。

4. 環境影響評価条例の改正について
・ 国の環境影響評価法の改正に伴い、県の環境影響評価条例が一部改正され、今会議で決定がなされるとされているが、さらなる検討を行い、島嶼性や基地問題を含めた沖縄の現状に適した抜本的な改正を行うこと。

参照
1. 奄美・琉球諸島のユネスコ世界自然遺産暫定リスト記載に関する環境省のプレスリリースと記載のための提出文書や関連文書は、環境省の以下のサイトを参照。http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=16268
2. 「やんばる[の森]を世界自然遺産候補地として検討すること」とした第2回国際自然保護連合(IUCN)の勧告2.72「沖縄島のおよびその周辺のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」(Conservation of Dugong, Okinawa Woodpecker, and Okinawa Rail in and around the Okinawa Island)に関しては、日本自然保護協会(NACS-J)の以下のサイトを参照。http://www.nacsj.or.jp/katsudo/henoko/2001/12/post-34.html
3. 国際自然保護連合(IUCN)の生態系管理委員会(Committee on Ecosystem Management(CEM))のニュースレターの2013年1月号で報告された沖縄の世界自然遺産暫定リストの登録に関する情報については、CEMの以下のサイトを参照。
http://www.iucn.org/knowledge/news/newsletters/cem_newsletter_1/
第3回国際自然保護連合 (IUCN)総会(2004年)での勧告3.32「日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全」
(Conservation of Dugong, Okinawa Woodpecker and Okinawa Rail in Japan)に関しては、日本自然保護協会(NACS-J)の以下のサイトを参照。 http://www.nacsj.or.jp/katsudo/henoko/2004/07/iucn-2.html
第4回国際自然連合(IUCN)総会(2008年)での決議4.022「2010年生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」(Promotion of Dugong Conservation during the UN 2010 International Year for Biodiversity)に関しては、日本自然保護協会(NACS-J)の以下のサイトを参照。
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/iucn/2008/10/4iucn-2010.html
4. 2012年の12月7日の沖縄県議会第8回定例会議おける、世界自然遺産登録に向けての課題に関する質問に対する沖縄県の回答は、以下のサイトを参照。
http://www2.pref.okinawa.jp/oki/Gikairep1.nsf/AllDoc/20120804010170?OpenDocument 
5. やんばるの森における林道建設の問題は、2009年7月に来沖し現場を視察したIUCN生態系管理委員会のピエット・ウイット副委員長により、伐採の問題と共に指摘している。「『やんばるの森』続く伐採:世界遺産目指すなか林道建設」朝日新聞、2009年8月13日。 
2013年1月に起きた高江ヘリ/オスプレイパッド建設地における土砂崩落のケースで露呈された、米軍提供区域への立ち入り許可や調査の問題や、沖縄県が保護に責任を持てない体制などについては、沖縄・生物多様性市民ネットワークの沖縄防衛局との交渉報告を参照。
http://okinawabd.ti-da.net/e4402014.html
6. 沖縄におけるIUCNのレスリー・モロイ氏の講演と、沖縄・生物多様性市民ネットワークと同氏のやりとりについての報告は、同ネットワークの以下のサイトを参照。 
http://okinawabd.ti-da.net/e4154949.html
7. 世界遺産に登録されているフィリピン沖のトゥバタハ岩礁海洋公園における米海軍の掃海艦がサンゴ礁に乗り上げ事故と、フィリピン政府の対応については、AFPの以下のサイトを参照。
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2922329/10137170

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