沖縄BDからの回答:「公開批判・質問状」に対して

2012年10月08日

去った9月12日、沖縄BDのブログを通して、沖縄BDの「日本人事務局メンバー」宛に「公開批判・ 質問状」が送られてきました。批判と質問の内容は、沖縄BDがAIPRとIMADAと共同で今年の2月に国連人種差別撤廃委員会に提出した文書に関係するも のです。

沖縄BDとしては、この「公開批判・質問状」が事実誤認に基づいて作成され、それが「日本人事務局メンバー」という宛先で送られたことを問題だと考え、前事務局、事務局ワーキンググループ、共同代表、その他のメンバーが関わり回答文を作成し、先日9月25日に「公開批判・質問状」の作成者と連名者の方々に送りました。

「オスプレイ配備」「辺野古/大浦湾の基地建設」「高江のヘリパッド工事」の対応に沖縄BDのメンバーも連日のように追われており、「公開批判・質問状」に対する沖縄BDの回答の作成と送付に時間がかかりました。

沖縄BDの「回答」と「公開批判・質問状」は、下の「続きを読む」をクリックすると読めます。

沖縄BD 前事務局長 吉川秀樹

ここから

龍谷大学教員
NPO法人ゆいまーる琉球の自治代表
   松島泰勝様
(連名者: 赤嶺善雄様、親川志奈子様、金城有紀様、友知政樹様、玉城福子様、
桃原一彦様、石原昌英様、山城梨乃様、照屋みどり様)




 沖縄・生物多様性市民ネットワーク
 前共同代表・前事務局・事務局ワーキンググループ
コンタクト: 吉川秀樹 yhidekiy@gmail.com

1 はじめに
先日9月12日、松島さんと7名の方の連名で、沖縄・生物多様性市民ネットワーク(沖縄BD)がAIPR(琉球弧の先住民族会)やIMADR(反差別国際運動)と共に、今年2月に国連人種差別撤廃委員会(CERD)に提出した文書「早期警戒と緊急手続きに基づく―国連人種差別撤廃委員会への要請-日本国沖縄における米軍基地建設の現状」と、それに関連する沖縄BDのその他の文書(ブログ等も含む)に対して、沖縄BDのブログのコメント欄を通して、「公開批判・質問状」を頂きました。

 宛先は沖縄BDの「日本人事務局メンバー様」となっていましたが、CERDに提出した文書のドラフト(原文)作成や、まとめに大きく関わったのは、当時沖縄BDの事務局長であった私吉川秀樹であり、「公開批判・質問状」で問題にされている「Japanese residents of Okinawa」「沖縄に居住する日本人」という文言を入れたのも私です。また、この「沖縄に居住する日本人」の文言に関して、AIPRのメンバーと直接会って話し合いをもったのも私です。ですから私の方から、今回の「公開批判・質問状」に対する沖縄BDの団体としての回答と見解を示したいと思います。

 なおCERDに提出した文書は、沖縄BDの前共同代表、前事務局のもとで提出されています。それで今回の沖縄BDの対応者として、前共同代表、前事務局、そして現在の事務局ワーキンググループを記載させて頂きます。さらには「公開批判・質問状」が送付された時、私が韓国・済州島で国際自然保護連合(IUCN)(9月6~15日)の会議に参加していており、帰国後も私用で青森に行かなければならず、今この時点での対応となっていることをご理解下さい。
2「公開批判・質問状」の宛先への疑問とCERD 提出文書の位置づけについて
 今回の「公開批判・質問状」について回答をする前に、以下の2点について述べさせて下さい。

 まず1点目ですが、「公開批判・質問状」がなぜ沖縄BDの「日本人事務局メンバー」宛で提出されているのか、なぜ、CERDに文書を提出した3団体でないのか、あるいは、CERD提出に記載されている3名のコンタクト先ではないのか、沖縄BDとしては理解に苦しんでいます。

 「公開批判・質問状」が沖縄BDのみに向けられている場合でも、少なくとも「公開批判・質問状」の宛先は、沖縄BDという団体、あるいはCERD提出文書にコンタクトとして名を記している私となるべきだったと考えます。

 また当時の「日本人事務局メンバー」は2人いましたが、その個人に対して個人的に「質問」をするならまだしも、なぜ、インターネット上での「公開」による「批判」[質問]という形をとったのか、理解できませんし、これは大きな問題だと考えます。

 憶測することは好みませんが、「公開批判・質問状」の作成にあって、CERDへ提出した文書が沖縄BDの「日本人事務局メンバー」によって作成されている、あるいは問題として取り上げられている「沖縄に居住する日本人」の文言が「日本人事務局メンバー」によって入れられている、という誤った思い込みが皆さんにあったのではないかと、沖縄BDは考えざるをえません。

 2点目として、CERDに提出した文書の性格と、CERDの仕組みにおける位置づけ、そして提出後の展開について確認しておきます。

 今回の文書は、CERDの「早期警戒と緊急手続き」という仕組みに基づき、辺野古/大浦湾での新たな米軍基地建設とやんばる高江におけるヘリパッド/オスプレイパッド建設に焦点をあて作成、提出したものです。

 ご存知のように、CERDには様々な「人種差別」問題に対して、幾つかの解決のための仕組みがあります。その中でも「早期警戒と緊急手続き」の仕組みは、現状がエスカレートして悪化することを防ぐため、及び、国連人権条約違反が現在進行している際の緊急的対応、ということを目的とした仕組みです。

 沖縄県内外の多くの人々が建設に反対するなか、日米政府はSACO合意を根拠に、新たな基地やヘリパッド/オスプレイパッド建設を押し進め、現場では緊張感が続いています。さらにはオスプレイ配備も、新基地やヘリパッド/オスプレイパッド建設とリンクしながら、沖縄県民の声を全く無視する形で押し進められています。特に高江においては、工事の強行により怪我人がいつでるか分からないほど、危険で緊迫した状態が続いています。このような状況を解決する手段の一つとして、今回CERDの「早期警戒と緊急手続き」を使っています。

 幸いにも、CERDは私たち3団体の提出した文書を反映させる形で、3月9日に日本政府に対して書簡を送り、辺野古/大浦湾での新基地建設と高江でのヘリパッド/オスプレイパッド建設についての状況を説明するよう求めました。その後7月31日に日本政府は回答をCERDに送っています。

 さらに8月には、”Update and Follow-up Information to Our Joint Submission on the Situation of US military Base Constructions in Okinawa and the Letter Sent by CERD to Japanese Government on March 9, 2012”.(以下「Update & Follow Up」)の文書と、日本政府の回答に対しての「コメント/見解」“Comments on the Response of the Government of Japan to the Request of the Committee on the Elimination of Racial Discrimination (CERD) dated 9 March 2012”を、3団体でCERDに提出しています。そしてその提出を受けて、CERDは日本政府に対して新たな書簡を提出しています。これらの一連の動きは沖縄BDのブログで、原文と沖縄BDの和訳とともに読む事ができます。


3 「公開批判・質問状」の内容への返答
 ではここから、今回の「公開批判・質問状」に対してお答えしていきたいと思います。沖縄BDとしては「公開批判・質問状」には論点が二つあると理解しています。その1点目は、「琉球/沖縄人」と「沖縄に居住する日本人」あるいは「在琉日本人」が「人種差別」の対象として「並記」されているとした、抗議と批判と質問です。そして2点目は、その「並記」したことに対して、沖縄BDが、AIPRが「納得もしていないのにかかわらず、勝手に、無断で」AIPRの団体名や代表の名前を列記した、という批判と、なぜ列記したかという質問です。回答のし易さという点で、まず2点目の問題から回答していきます。

3-1「勝手に、無断で列記した」という批判について
「公開批判・質問状」では、

同要請文において、どのような経緯で在琉日本人を琉球人と並べるようになったのかを説明してもらいたい。琉球人に対して説明する義務があります。なぜ人種差別撤廃委員会に対する要請文の中でなければならないのか。特にAIPRの宮里代表が在琉日本人記載に納得していないにもかかわらず、勝手に、無断で列記したのは琉球人に対する大変な冒涜だといえます。しかもAIPRも要請文の最初に名前を連ねており、AIPRも在琉日本人列記に理解を示している形になっています。琉球人の存在や意思を無視するやり方は、日米両政府が琉球に基地を押し付けるやり方と変わりません。

となっています。

 また

今年7月、国連NGO・琉球弧の先住民族会の宮里護佐丸代表を龍谷大学社会科学研究所「島嶼経済とコモンズ」研究会にお招きして「琉球民族とヤマトンチューの関係性について―琉球民族の権利主張を阻害する在琉日本人の問題」と題する講演をお願いしました。

琉球弧の先住民族会、沖縄・生物多様性市民ネットワーク、反差別国際運動の連名で今年2月10日に提出された「早期警戒と緊急手続きに基づく―国連人種差別撤廃委員会への要請-日本国沖縄における米軍基地建設の現状」の中で、「琉球/沖縄の人々と沖縄に居住する日本人」のように、琉球人と並列されて在琉球日本人が当該要請文の主体として位置付けられています。宮里代表もこのような在琉日本人の傲慢な行為に対して大変怒っていました。


という形で説明がなされています。

 しかし、AIPRの代表が「納得もしていないにもかかわらず、勝手に、無断で」沖縄BDがAIPRの団体名と代表者名を列記して、CERDに提出した事実はありません。

 CERDへ提出した文書の作成は、今年の1月中頃、まず各団体から情報や資料の提供をしてもらい、それを基にドラフト(原案)文書を私が書きました。そしてそのドラフト文書を、メールを通して3団体の代表メンバー、ならびに市民外交センターのメンバーで共有し、意見を出し合い、その意見を反映させる形で、書き直すという作業を行って完成させ、2月10日付けで提出しました。その過程において、沖縄BD、AIPR、IMADRの代表メンバーも常に様々な形で関わってきました。

 「公開批判・質問状」で問題とされている「沖縄に居住する日本人」という文言については、ドラフト文書の最初の段階から入っていました。途中から入れたものではありません。その文言をいれたドラフト文書は、AIPR、IMADR, 市民外交センターと共有されており、その文言が問題であるということは、CERDに提出するまでありませんでした。

 またCERDへ文書提出をした直後に、AIPR、沖縄BD、IMADRのメンバーから、ミス・スペルの訂正や事実関係を明確にするための文言調整の必要性が指摘され、それを訂正する作業を行いました。そして沖縄BDが「List of Corrections (as of March 9, 2012)」「訂正箇所のリスト」を作成し、3団体でCERDへ提出するという手続きを行っています。その時にも「沖縄に居住する日本人」の文言は問題にはなりませんでした。

 CERDに文書を提出後に、AIPRの代表のほうから、「沖縄に居住する日本人」という文言に対してAIPRのメンバーや関係者の中から問題ではないか、と指摘されたということの報告を受け、私が3月6日にAIPRの代表及びメンバーの方と話し合いをもちました。この時点まで、「沖縄に居住する日本人」の文言が問題となったことはありません。

 その後提出した文書を受けて、CERDが日本政府に3月9日付けで書簡を送りましたが、その書簡には「沖縄に居住する日本人」の文言が入っていました。

 以上が、CERDに提出した文書の作成の経緯と、「沖縄に居住する日本人」という文言が入った経緯です。

 情報提供として記述しておきますが、3団体がCERDへ文書を作成し提出する直接のきっかけとなったのは、昨年末、辺野古アセス評価書の沖縄防衛局の強行搬入が行われた時に、沖縄BDからIMADRや市民外交センターへ相談をしたことから始まります。そして今年の1月、IMADRのメンバーがAIPRを通して国連の取組みの勉強会での講師として沖縄に招かれ、視察を行う機会がありました。そこで3団体が一緒に辺野古や県議会議長への訪問を行い、1月27日のAIPR主催の勉強会においてAIPRより、共同提出の提案を受け、文書作成の取組みがはじまりました。

 それ以前にも、沖縄BDのメンバーがAIPRの主催する勉強会に参加させて頂いています。それから私個人としては、2006年にIMADRの招きで国連特別報告者のドゥ・ドゥ・ディエン氏が来沖した際、辺野古での通訳、情報提供者として関わっています。そういう下地があり、3団体で今回のCERDに文書が作成され提出されていることを、ご理解して頂きたいと思います。

 次に、今回の「公開批判・質問状」の根拠となっている龍谷大学での同研究会でのAIPRの宮里護佐丸代表の発言や、松島さんと宮里代表とのやりとりについて触れたいと思います。

 沖縄BDとしては、これまでのAIPRと一緒に活動してきた経験から、「公開批判・質問状」で示されているような発言を宮里代表が行うとは考えていません。私個人としても、済州島での会議の参加中に「公開批判・質問状」を初めて読んだのですが、その時も何かの間違いだろうと考えました。そして沖縄BDは、今回の「公開批判・質問状」ついては、宮里代表から以下のような回答を頂いています。

「在琉日本人」文言をめぐる問題は、AIPR側に全ての責任があるにもかかわらず、沖縄BDの皆さんが快く解決に協力していただいたことには感謝こそすれ、批判したことは一度もありません。

8月4日の松島さん主催の学習会で、日本人が絡む問題として辺野古、高江の件を話しました。別の流れで沖縄BDとの件も話しましたが、私たちに非があることも含めて話しました。学習会では主として、在琉を含む日本人の問題行動について問題提起しました。

9月12日に松島さんから公開批判・質問状を送りたいとのメールを午前4時頃受け取り、内容を見て沖縄BDとの件はAIPRとして解決済みの問題なので、公開批判・質問状の送付を止めて欲しいと要請しましたが、その時点ですでに送付してしまいましたとの返事でした。


 龍谷大学における宮里代表の「琉球民族とヤマトンチューの関係性について―琉球民族の権利主張を阻害する在琉日本人の問題」と題する講演が具体的にどんなものであったかは知りません。しかし「公開批判・質問状」で描写されている宮里代表の態度や言動と、沖縄BDが宮里代表から頂いた回答の内容では、あまりにもギャップがあります。

 沖縄BDとしては、CERDへの提出文書を一緒に作成し提出してきた経験、そして今回宮里代表から頂いた回答を考慮すると、「公開批判・質問状」は事実誤認のもとに作成され、送られたのではないか、と判断せざるをえません。

3-2「琉球/沖縄人」と「沖縄に居住する日本人」の「並記」について
 今回の「公開批判・質問状」では、

しかし今年2月初めて、国連で世界に訴える主体として「沖縄に居住する日本人」も琉球人と並んで自己主張を行う事態になったのです。これは国連でこれまで活動を行ってきた琉球人、そして琉球人一般に対する大いなる侮辱であり、私は心底から憤っております。

となっており、「琉球/沖縄人」と「沖縄に居住する日本人」が、「並記」されたことをもって、「沖縄に居住する日本人」が「自己主張」を行っているという、松島さんたちの認識と、それに対する憤りが示されています。

 そして

日本人によって差別されてきた人種、民族である琉球人の「人種差別」の説明と改善を日本政府に求めて来た人種差別撤廃委員会に対する要請文において、在琉日本人が自らの被害を訴えることに疑問をもたないのでしょうか。琉球人を「支援」するふりをして、在琉日本人のプレゼンスを高めようとしているのではないでしょうか。国連、国際法を活用した琉球人の脱植民地化運動、権利主張の邪魔をしないで下さい。在琉日本人の基地被害を訴える場所や機会は他にあるはずです。人種差別撤廃委員会において在琉日本人の被害を訴え、保護を求めることは、琉球人の国連における活動を妨げる行為につながります。

という質問と、要求と見解が示されています。

 まず「沖縄に居住する日本人」という文言が入っている、あるいは「並記」されていることについてですが、これは「沖縄に居住する日本人」が「人種差別」の被害者として「自己主張」をしているのではなく、沖縄/琉球人に対する「人種差別」の一つの形としての基地問題の被害は、沖縄/琉球人だけではなく、「沖縄に居住する日本人」にも及んでいる、という事実として書いています。前にも書きましたが、この文言を入れたのは私であり、琉球/沖縄人です。「日本人事務局メンバー」が「自己主張」のためにいれた、ということはありません。

 確かに、沖縄BDには琉球/沖縄人も、「沖縄に居住する日本人」も、その他の国籍/民族の方もメンバーとなっていますので、読み手や読み方によっては、日本人のメンバーが「自己主張をしている」と解釈することも可能です。しかしだからといって、その解釈をもって、「在琉日本人が自らの被害を訴えることに疑問をもたないのでしょうか。琉球人を「支援」するふりをして、在琉日本人のプレゼンスを高めようとしているのではないでしょうか。国連、国際法を活用した琉球人の脱植民地化運動、権利主張の邪魔をしないで下さい」という「批判」や「質問」が行われること、そしてそれが沖縄BDの「日本人事務局メンバー」に向けられるのは大きな問題だと考えます。

 CERDに提出した文書のなかで、基地問題により琉球/沖縄人も「沖縄に居住する日本人」も被害を被っているという具体的例の一つとして、ヘリパッド/オスプレイパッド建設に反対する高江の住民とその支援者を日本政府が裁判で訴えた件をあげています。この裁判については、住民の弁護士も、沖縄BDも、これはSLAPP(威圧的、恫喝的訴訟 直訳では「対公共関係戦略的法務」)訴訟であり、人権侵害であるとの認識を持っており、CERDに提出した文書のなかでも指摘しています。

 すでにご存知だと思いますが、日本政府が訴えた高江の住民には、「琉球/沖縄人」も「沖縄に居住する日本人」も入っていました。そしてその中には、「琉球/沖縄人」と「沖縄に居住する日本の人」の夫婦も、琉球/沖縄人と「沖縄に居住する日本人」の「ダブル」の子供も入っています。

 CERDに提出した文書のなかで、日本政府にSLAPP訴訟で訴えられた夫婦の一方について、「日本人」だからといって言及しないということが適切なのでしょうか。CERDが扱う「人種差別」の対象には「日本人」は当てはまらないからとして、日本人への基地建設の影響については言及しないということが適切なのでしょうか。私たち沖縄BDは、これは言及されるべき問題であり、事実であるという認識を持っています。

 差別のなかには、discrimination by association或はtransferred discriminationと呼ばれる差別があることはご存知でしょう。差別の対象でなかった人々が、差別されている人々に関わることにより、自らも差別されるということです。沖縄BDでは、「差別の連鎖」ということばで示してきました。今回CERDに提出した文書において、基地集中の被害や、新たな基地やヘリパッド/オスプレイパッド建設に関連して、「沖縄に居住する日本人」という文言をいれたのは、このdiscrimination by associationへの視点があるからです。

 沖縄BDとしては、琉球/沖縄人への「人種差別」の問題において、discrimination by associationを示すことは、決して、「人種差別」そのものから視点をそらしたり、「人種差別」問題解決のための取組みを弱くすることには繋がらないと考えます。むしろ、その点を指摘していくことも、「人種差別」の問題を解決するための動きに繋がると考えています。

 ここで皆さんにぜひご理解して頂きたいのは、私たちは、CERDに提出した文書において、「沖縄に居住する日本人」が「人種差別」の対象になっている、という議論はしていないということです。

 また「公開批判・質問状」では、

人種差別撤廃条約では、人種差別の定義が次のように定められています。「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」人種差別撤廃条約委員会による日本政府に対する勧告において対象になっているのは、アイヌ民族、在日韓国人・朝鮮人、琉球人、インドシナ難民、ミャンマー難民、被差別部落民等であり、いわゆる日本人が対象になったことはありません。あなた方は「人種差別」をどのように定義し、在琉日本人も差別される人種であると本当にお考えですか。

と、「人種差別」の定義に対する私たちの見解を求めていますが、私たち沖縄BDも人種差別撤廃条約の定義を、「人種差別」の定義として、CERDに提出した文書の作成に関わってきました。ただし、「公開批判・質問状」が引用している日本政府の「仮訳」では、条約本文(英文)の「national」の部分が「種族的」と訳されおり、私たち沖縄BDはそこを「国籍」という訳にして、理解しています。

 提出した文書を読んで頂けると分かると思うのですが、「人種差別」が「沖縄に居住する日本人」あるいは「在琉日本人」にあてはまる、という趣旨の文言はないはずです。むしろCERDという枠組みのなかで、その定義に根拠を置いて文書を作成したわけですから、「人種差別」という概念自体を「在琉日本人」に当てはめることはできません。

 CERDに提出した文書の議論は、1)歴史的に琉球/沖縄の人たちは、さまざまな形の「人種差別」を受けており、「人種差別」は現在でも続いている。2) 現在沖縄に集中している米軍基地や、新たな基地やヘリパッド/オスプレイパッドの建設は琉球/沖縄人への「人種差別」の一つの形である。3) 琉球/沖縄、そして琉球/沖縄人にいろいろな形(婚姻、就職、支援)で関わることにより「沖縄に居住している日本人」も基地の被害という「差別」「人権侵害」を受けている、という議論です。

 そしてぜひとも確認して頂きたいことは、私たちがCERDに提出した文書で焦点としているのは、そして文書構成と各項目の内容や量においても重点を置いているのは、1)と2)の部分であり、3)の「沖縄に居住する日本人」については、あくまでもdiscrimination by associationあるいは「差別の連鎖」という範囲での扱いになっているということです。

 例えば「背景」の項目における「琉球/沖縄人へ」の「人種差別」、特に日米両政府による「人種差別」やそれに依拠する人権侵害については、これまでAPIRや松島さんたちが指摘してきたことも含めて、しっかりと書いているつもりです。この「背景」の部分は、量的にも、今まで国連に提出されている沖縄関係の問題を訴える文書と比較しても、少なくはないはずです。

 また「辺野古/大浦湾における米軍基地建設」や「高江における6つのヘリパッド建設」の項目では、建設の影響を懸念して建設に反対する主体として「琉球/沖縄人」と「沖縄に居住する日本人」を「並記」していますが、それ以外にも「国内外のNGO」「専門家」も「並記」しており、「沖縄に住居する日本人」の「自己主張」とはなっていません。さらに重要なことは、軍事基地建設やヘリパッド建設は、UNDRIP(先住民族の権利に関する国際連合宣言)とCERDの条項への違反であるとしており、つまり琉球/沖縄人の先住民性に関わる問題という認識のもとに、この項目も書かれているのです。

 最後のCERDへの「要請」の項目ですが、そこではまず、CERDからのこれまでの差別撤廃の要請にも関わらず、琉球/沖縄人への差別が存在すること、その差別に対してのモニターリングや解決の為の取組みが、日本政府によって未だに取られてないことを指摘しています。そして「人種差別」を扱うCERDの文脈のなかで、4つの具体的要請が示しており、そのa)とb)で示される「沖縄に居住する日本人」に関する要請は、「人種差別」ではなく、discrimination by associationという認識での要請になっています。


4終わりに
 以上、皆さんから頂いた「公開批判・質問」に対して、CERDに提出した文書の作成に大きく関わり、「公開批判・質問状」で問題として扱われている「沖縄に居住する日本人」の文言をいれた沖縄BDの前事務局長の私が、沖縄BDの回答と見解を示させて頂きました。

 繰り返しますが、私たち沖縄BDは、なぜこの「公開批判・質問状」が、CERDに文書を提出した3団体ではなく、また沖縄BDではなく、また沖縄BDの代表として名前が記載された私ではなく、沖縄BDの「日本人事務局メンバー」宛に送られたのか理解できませんし、これは大きな問題だと考えています。

 また「公開批判・質問状」で示された、「沖縄に居住する日本人」の「並記」に関わる批判や質問、またAIPRの団体名や代表の名前の「列記」に関する批判や質問には、事実誤認があるのではないか、そしてその事実誤認のもとに今回の「公開批判・質問状」が作成され、送られたのではないかと私たち沖縄BDは考えています。

 また私たち沖縄BDは、CERDという枠組みやCERDにおける「人種差別」の定義を理解して、「沖縄に居住する日本人」の文言は入れており、それによって「沖縄に居住する日本人」が「人種差別」の対象になっている、あるいはそういう「自己主張」をしている、という議論はしていません。

 さらには、3団体が送った文書を受けてCERDが日本政府に送った書簡には、「沖縄に居住する日本人」という文言が入っていますが、人種差別問題の専門機関であるCERDが「人種差別」の対象としての理解で「沖縄に居住する日本人」の文言を書簡にいれているとは、私たち沖縄BDは考えていません。

 最後に皆さんにぜひご理解して頂きたいことがあります。今回のCERDへの文書の提出と関連する一連の動きは、辺野古/大浦湾における基地建設と高江におけるヘリパッド/オスプレイパッド建設は、琉球/沖縄における解決すべき重要問題であるとの共通認識のもと、AIPR、IMADR、沖縄BDの3つの団体が、お互いの違いを越えて取り組んできたものです。

以上。





ここから「公開批判・質問状」

公開批判・質問状
沖縄・生物多様性市民ネットワーク(沖縄BD)の日本人事務局メンバー様                        
                     

松島泰勝
龍谷大学教員
NPO法人ゆいまーる琉球の自治代表

 私は琉球人の松島泰勝と申します。龍谷大学経済学部の教員、NPO法人ゆいまーる琉球の自治の代表をしています。私は先住民族の琉球人として、1996年に国連人権委員会先住民作業部会、2011年に国連脱植民地化特別委員会に参加した経験がある者です。
今年7月、国連NGO・琉球弧の先住民族会の宮里護佐丸代表を龍谷大学社会科学研究所「島嶼経済とコモンズ」研究会にお招きして「琉球民族とヤマトンチューの関係性について―琉球民族の権利主張を阻害する在琉日本人の問題」と題する講演をお願いしました。
琉球弧の先住民族会、沖縄・生物多様性市民ネットワーク、反差別国際運動の連名で今年2月10日に提出された「早期警戒と緊急手続きに基づく―国連人種差別撤廃委員会への要請-日本国沖縄における米軍基地建設の現状」の中で、「琉球/沖縄の人々と沖縄に居住する日本人」のように、琉球人と並列されて在琉球日本人が当該要請文の主体として位置付けられています。宮里代表もこのような在琉日本人の傲慢な行為に対して大変怒っていました。
 さらに、「国連人種差別撤廃委員会への要請文提出:辺野古/大浦湾と高江における米軍基地建設の検証と早急な対応を」という文章の中でも、「同委員会のこれまでの見解や勧告は、「先住民族」という視点から琉球/沖縄の人びとを対象にしてきましたが、今回の私たちの要請では、沖縄に本土から移住してきた人びとも、米軍基地の集中や新たな基地建設により、同様の差別や人権侵害を受けていることを訴え、差別や人権侵害の連鎖が起こっていることも訴えています」との記載があります。

 以上を受けて次のような諸点において強く抗議し、回答を求めたいと思います。
①1996年以来、アイヌ民族に学び国連を通じて行われてきた琉球人による脱植民地化運動において、琉球を政治経済的に、文化的に植民地支配し、差別してきたのは、日本政府、日本人であるという問題意識が一貫として流れていました。先住民族としての琉球人は、在琉球の日本人をセトラー、植民者、占領者として認識し、日本人支援者もそのことをわきまえて活動をしてきたと考えます。しかし今年2月初めて、国連で世界に訴える主体として「沖縄に居住する日本人」も琉球人と並んで自己主張を行う事態になったのです。これは国連でこれまで活動を行ってきた琉球人、そして琉球人一般に対する大いなる侮辱であり、私は心底から憤っております。

②日本人によって差別されてきた人種、民族である琉球人の「人種差別」の説明と改善を日本政府に求めて来た人種差別撤廃委員会に対する要請文において、在琉日本人が自らの被害を訴えることに疑問をもたないのでしょうか。琉球人を「支援」するふりをして、在琉日本人のプレゼンスを高めようとしているのではないでしょうか。国連、国際法を活用した琉球人の脱植民地化運動、権利主張の邪魔をしないで下さい。在琉日本人の基地被害を訴える場所や機会は他にあるはずです。人種差別撤廃委員会において在琉日本人の被害を訴え、保護を求めることは、琉球人の国連における活動を妨げる行為につながります。

③同要請文において、どのような経緯で在琉日本人を琉球人と並べるようになったのかを説明してもらいたい。琉球人に対して説明する義務があります。なぜ人種差別撤廃委員会に対する要請文の中でなければならないのか。特にAIPRの宮里代表が在琉日本人記載に納得していないにもかかわらず、勝手に、無断で列記したのは琉球人に対する大変な冒涜だといえます。しかもAIPRも要請文の最初に名前を連ねており、AIPRも在琉日本人列記に理解を示している形になっています。琉球人の存在や意思を無視するやり方は、日米両政府が琉球に基地を押し付けるやり方と変わりません。

④人種差別撤廃条約では、人種差別の定義が次のように定められています。「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」人種差別撤廃条約委員会による日本政府に対する勧告において対象になっているのは、アイヌ民族、在日韓国人・朝鮮人、琉球人、インドシナ難民、ミャンマー難民、被差別部落民等であり、いわゆる日本人が対象になったことはありません。あなた方は「人種差別」をどのように定義し、在琉日本人も差別される人種であると本当にお考えですか。

⑤あなた方は「沖縄に本土から移住してきた人びとも、米軍基地の集中や新たな基地建設により、同様の差別や人権侵害を受けていることを訴え、差別や人権侵害の連鎖が起こっていることも訴えています」と述べています。琉球人は沖縄戦における日本軍による虐殺や集団強制死、戦後の米軍統治時代における人種差別を受けて来ましたが、このような琉球人と、近年琉球に移住してきた日本人とを並列して、基地被害の主体としてよいのでしょうか。歴史的に受けて来た琉球人の日本人による差別という深刻な問題に対する認識と反省があなた方には欠如しています。

⑥我々の以上のような批判に対し反省するのであれば、貴団体のHP,ブログにおいて謝罪文を掲載してもらいたい。

⑦私は琉球の脱植民地化を求め、進める活動家であるとともに、研究者でもあります。冷静に、客観的に論理的に話しあい、そちら側の考えや主張を聞き、議論したいと考えています。私は今年10月16日から19日まで琉球に帰国します。その間、グアム政府脱植民地化委員会のエドワード・アルバレス事務局長、米領バージン諸島のカーライル・コービン国連アドバイザーも来琉し、研究会を開きます。その間、ご都合がつきましたら、意見交換、討論の場が設けられたら幸いです。

連名者:赤嶺善雄、親川志奈子、金城有紀、友知政樹、玉城福子、桃原一彦、石原昌英、山城莉乃、照屋みどり





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