沖縄市サッカー場調査結果に対する専門家意見について (要請文)

沖縄BD

2015年04月19日 19:52

 たまり水の調査報告に関する専門家の意見を踏まえ、3月19日に要請文を関係機関に送付しました。



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2015年3月19日
 
沖縄防衛局長 井上 一徳殿
沖縄市長 桑江朝千夫殿  
沖縄市教育長 狩俣 智殿
沖縄県知事 翁長 雄志殿
嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会
会長 嘉手納町長 當山宏殿

沖縄・生物多様性市民ネットワーク
共同代表/ディレクター 河村 雅美
沖縄県宜野湾市志真志4-24-7 セミナーハウス304
 NPO法人「奥間川流域保護基金」事務所内
 TEL/FAX:098-897-0090 

沖縄市サッカー場調査結果に対する専門家意見について
(要請

2015年2月10日、沖縄防衛局は主に2014年10月2日に採水したたまり水についての沖縄市サッカー場調査結果・分析「旧嘉手納飛行場(26)土壌等確認調査(その2)嘉手納飛行場返還跡地内報告書 平成27年1月 沖縄防衛局調達部/中央開発株式会社」を公開しました。

この調査は、2014年7月にたまり水やドラム缶底面土壌から、ダイオキシン類、DDT類、油分等が検出されたことから、汚染範囲の特定等のために実施された調査です。
今回の調査は、沖縄市はカウンター的調査は実施していません。

沖縄・生物多様性市民ネットワークは、「沖縄市サッカー場調査監視・評価プロジェクト」の一環として3名の専門家、宮田秀明氏(摂南大学名誉教授)、池田こみち氏(環境総合研究所顧問)、國吉信義博士(元マーチ基地環境保全官)から沖縄防衛局の調査、分析、評価が妥当なものであるかなどについて評価を求めました。

3意見書は共通して、沖縄防衛局は汚染を限定的にみていることを指摘しています。この指摘に対し、関係諸機関は考慮、対応するべきであると考えます。

主に、以下の点が指摘されています。

1. たまり水のダイオキシン濃度は高い。しかし、危険性/安全性を認識するために明示すべき数値を、報道資料等で触れていない。
-未ろ過水: 170pg/-TEQ/L、ろ過水: 33pg-TEQ/Lは、環境基準値の170倍、33倍であり、極めて高い。これに触れていないことは問題である。
 -ダイオキシン類の危険性を知る上で重要な数値である2,3,7,8-TCDDの割合は、市民に示すべきデータであるが、わかりやすく数字として示されていない。
15%は決して小さい割合でない。水試料で、2.3.7.8-TeCDDの毒性等量濃度の割合が15%程度というのはかなり高く、土壌ではほとんど見られない数字である。

2. 雨水等によって埋め立て物から異常な濃度のダイオキシン類が持続して溶出している。
 -今回のろ過水に含まれているダイオキシン類は粒子に吸着しているものではなく、たまり水に「溶存体」という存在形態で溶解しており、極めて高率で存在している。
-ダイオキシン類の溶解性を増加させる物質がたまり水に含まれており、雨水によって容
易に溶出される状況である。長期間にわたって持続していたものと判断される。 (宮田秀明氏意見書)

3. ドラム缶発掘工事の影響が、排水で検出されたダイオキシンで確認されていることは認めているが、その原因については追求していない。
 -報告書では、「平成26年1月末から2月初めにかけて実施したドラム缶発掘工事の影響が考えられる」「ドラム缶発掘工事の影響はあるものの」”(p.34)と、工事の影響があったこと自体は認めているにも関わらず、「たまり水の影響は排水口に及んでいないと判断される」と、たまり水と排水口の関係のみで結論づけている。工事の影響を受け、ダイオキシンがどのような媒体で、どのように移動したのかの原因について追求していない。また、この部分の記述も、わかりにくいものになっており、用語も専門用語では用いられない用語(「毒性等量割合」)も見受けられ、報告の記述として問題もある。 (池田こみち氏意見書) [参照別紙1]
                                                             
4. 沖縄防衛局の調査は汚染範囲を限定的にみている 
- 上記3項目について考慮している分析になっていないがゆえに、汚染範囲を限定的にみている。
-國吉信義氏の以下のコメントも考慮すべきである。
“ドラム缶はシルト質の地層に埋められていた。シルト質は全くの非浸透性ではない。たまり水はドラム缶を掘り出したとき、周囲のシルト質粘土の壁から、じわじわとにじみ出て、窪地にたまった水であろう。
  防衛局は、たまり水が出た周辺は浸透性の低い地層なので、ダイオキシンを含む水が直下の地板に浸透する可能性は小さいと結論しているが、シルト質地層に含まれている水は粘土層で遮られているので直下には浸透しにくいが、横にはゆっくりだが、動くはずである。横に動いて、粘土のないところにきたら、水は下に動く。ドラム缶が埋もれていたシルト層がどの程度広がっているか、ダイオキシンを含む水が拡散していないか知りたい。“

5. 沖縄防衛局の調査は明らかに不正確な分析がある
-沖縄防衛局の調査分析は次の2点で不正確な分析がある。[別表2]
 ①たまり水の主な異性体割合 
1,2,3,7,8-PeCDDが多く、これは焼却関連物(焼却灰、焼却飛灰など)に含まれる代表的ダイオキシン類異性体である。これを含まない、「….(2,3,5-T不純物、PCP不純物、およびPCBに由来するダイオキシン類が混在して存在していたと考えられる)(「報告書」、p.30)との内容は正確ではない。
 ②ダイオキシン類の溶解性を増加させる物質
防衛局の調査では一般土壌に存在する腐植物であるフミン酸やフルボ酸がたまり水に含まれており、ダイオキシン類の溶存体を増加させたものと記載しているが、腐植物以外の埋め立て物(ドラム缶)に起因によるものと推測される。 (宮田秀明氏意見書)

このような分析は、これまでの調査結果の範囲内に納めることによって、これ以上問題が拡散しないこと、処理処分についてもできるだけ限定的にしたい意図があるように疑念を持たれる可能性がある。

6. 「監修」する専門家の位置づけ
-沖縄防衛局は報告書を「愛媛大学農学部森田昌敏感客員教授監修の下、とりまとめた」としているが、森田氏の「監修」の位置づけが曖昧である。 (池田こみち氏意見書)

沖縄防衛局によれば、調査報告のアドバイザー的な役割とのことであるが、報告書内で、どの部分が調査会社の記述・分析で、どの部分が専門家の見解なのか明確でなく、評価の責任の所在が不明である。

7. 埋め立て物は「ドラム缶」とは限らない
-当該地域の埋立物は、全てが金属製のドラム缶であったのか、ポリ袋やダンボール等の非磁気性の容器のものである可能性が示唆されている。 (宮田秀明氏意見書)

8, 沖縄県の水質調査は問題がある。
-調査報告の記述が十分でない。 (國吉信義氏コメント)

この問題は、環境総合研究所『嘉手納基地返還跡地(沖縄市サッカー場)ドラム缶発掘追加調査に関する意見書』(2014年12月16日付けで関係機関に送付済み)でも、「沖縄県の地下水などの周辺環境調査はおざなりなものであり、地域住民に安心材料を与えるには不十分である。(p.28)」と指摘されている。

以上を踏まえ、関係機関に以下を要請します。

【要請】
1.沖縄市と沖縄県は、今回の調査が妥当であるか独自に評価すること。また、関係諸機関は、汚染範囲の確定、浄化方法に関する開かれた協議の場を設定すること。
  このように複数の専門家から問題が指摘されている沖縄防衛局の調査報告について、沖縄市と沖縄県は調査分析が妥当であるかどうか、安全面から独自の評価をするべきであると考える。
  同時に、汚染範囲の確定、浄化方法決定過程において、誰が何をどのような基準で決定したかのプロセスが検証できるシステムをつくり、各機関の説明責任を担保すること。
 汚染に関しては、国内のダイオキシン汚染対策にみられる「技術検討委員会」などを参考にし、検討する第三者機関を設置すること。サッカー場の汚染はヒ素汚染なども含む「複合汚染」のため、まずは、専門性が担保された協議が必要であることを関係機関で確認すること。

2 ダイオキシンの溶出などについて、沖縄防衛局の調査報告では言及されていない専門家の見解を踏まえ、関係諸機関で評価・対処を再検討すること。 
また、ドラム缶発掘工事の影響がどのように排水口に及ぶこととなったのか、さらなる調査を実施すること。
理由は上記の問題指摘にあるとおり。

3. 発掘工事による汚染の拡散、作業者や住民への安全確保、環境への影響について慎重に検討し、事前に市民/住民に必要な情報を説明すること。

4. 汚染の本質的な原因究明を行うこと。
なぜこのサッカー場に100 本以上のドラム缶が埋め立てられて、長期間存在し、異常な濃度のダイオキシン類が持続して溶出することに至ったのか、その原因を究明すること。
  沖縄市の聞き取りによって得られた米軍人の埋設(1964年)以降の事実が確認されていないことを重要視すべきである。地歴調査からみると、サッカー場整備時にドラム缶が見逃され、埋め戻しをされている可能性も強く示唆される。過去の汚染、汚染経路、作業員などの被曝の可能性の洗い出しも含め、本格的な調査を行い、県内にこのような事例がないかを検討することが必要である。

5. 沖縄防衛局の調査報告の分析・記述・「監修」の問題を解決すること。
  不正確な分析や矮小化の懸念が持たれる報告書は問題である。今回の調査結果評価を再検討し、見解をあらたに公開することが必要であると考える。また、今後、環境基準値との比較や重要な数値の記述に努め、専門家の責任の所在の不明確さも解決に努めること。

6. ボーリング調査を基本とすること。
  埋め立て物はドラム缶とは限らないことが指摘されている。「廃棄物の埋め立て地における有害物の種類や濃度は均一ではなく、全くの不連続性を特徴とする。そのため、少し離れた地点における有害物質の種類や濃度は、水平的にも垂直的にも極めて大きく相違するため、ボーリング調査を基本とした調査設計をすること」という宮田氏の意見を検討すること。
  
7. 沖縄県の水の調査/分析の改善に努めること。
 複数の専門家から沖縄県の水の調査/分析については問題指摘がある。その改善に努めること。まずは、調査報告の記述(調査地点の選定理由など)について改善すること。

8. 調査の目的を明確にし、市民/県民のための報告をすること。
誰のために調査を行っているのかが曖昧である。国、県、市は税金を用いて、誰のために何のために調査を行い、評価し、報告しているのかをより明確にすべきである。汚染の有無が最終的な目的でなく、汚染原因の究明や汚染の拡散の可能性など、地域住民の視線や立場に立って調査が行われる必要である。
また、報告書も調査会社の報告をそのまま出すのではなく、市民/県民が理解できる報告書を作成すべきである。

                                           以上 

<専門家コンタクト>
◯宮田秀明(摂南大学名誉教授)
e-mail: miyata@m3.dion.ne.jp
Tel/Fax: 072-852-8233
携帯電話:090-3860-9501
◯池田こみち (環境総合研究所顧問)
ikeda@eritokyo.jp
080-1093-8754
◯國吉信義(元マーチ基地環境保全官)
skuni18@gmail.com


写送付先:宜野湾市長

要請文と別紙1
 (PDF: 504.32KB)
別表2
 (PDF: 170.66KB)

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