枯れ葉剤問題:県議会に陳情
沖縄BDは、昨年、2011年(平成23年)第8回沖縄県議会(11月定例会)に枯れ葉剤の件で、陳情を出しました。
基本的には、10月27日に行った沖縄県への交渉(BDブログはこちら→
「枯れ葉剤問題で沖縄県へ要請」)がもとになっています。
この陳情は、米軍基地関係特別委員会と沖縄振興・那覇空港整備促進特別委員会の2委員会で扱われることになりました。
(平成23年第8回沖縄県議会(11月定例会)委員会審査日程は
こちら)
陳情の処理方針、結果については別記事で報告します。
今回、新たに資料として、ロバート・エイブリー(Robert Avery)さんが作成した旧ハンビー飛行場域の枯れ葉剤埋設の疑いのある場所の地図をつけることができました(下記地図参照)。ロバートさんは、沖縄トリイステーションで陸軍の特殊部隊の一員として沖縄に駐留していたこともある、現在はRA Filmのドキュメンタリー映画監督です。パートナーの大城エイブリー絹枝(キキ)さんと、ドキュメンタリー"Why Okinawa? Messages from the People"を制作され、これはニューヨークで「最優秀歴史ドキュメンタリー賞」を受賞しました(RA Filmやおふたりについては
こちらをごらんください)。
おふたりは、8月に沖縄で行われ、ジョン・ミッチェルさんが来沖して枯れ葉剤の発表をした
Dialogue Under Occupation (「占領下における対話」)で、ドキュメンタリー・チームとして活躍されました。
ジョン・ミッチェルさんの発表をおふたりが記録してくださったものは、沖縄からの英語発信をしているOkinawa Outreachでこちらにアップしてあります。→
"Agent Orange on Okinawa: Jon Mitchell's Presentation and Rob and Kinue Avery's Documentary Clip on YouTube"
このように、いろいろな人々が結集してこの問題に取り組んでいます。
更新した資料、新たに作成した「枯れ葉剤に晒されたことに関係する疾病について(退役軍人省、Agent Orange: Diseases Related to Agent Orange Exposureの和訳)」もPDFでつけてありますので、ごらんください。このような難病の疾病に苦しみながら、枯れ葉剤が沖縄で使用されたことが認められないために、退役軍人の人々の受けられるべき権利が奪われています。それは治療の選択肢を奪われ、生命の危機に晒されていくことになります。枯れ葉剤が原因で、このような疾病に苦しんでいる沖縄県民がいる可能性があること、退役軍人の方々のこと、沖縄県も、両方を念頭に理解してとりくんでもらいたいと思います。
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2011年12月2日
沖縄県議会議長
高嶺 善伸殿
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
沖縄県宜野湾市志真志4-24-7 セミナーハウス304
NPO法人「奥間川保護基金」事務所内
TEL/FAX:098-897-0090
事務局 吉川秀樹
共同代表:伊波義安、城間勝、高里鈴代
沖縄における枯れ葉剤汚染の真相解明と経緯説明を求める陳情
ベトナム戦争において米軍は、猛毒ダイオキシンを含む化学兵器・枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)を1961~71年の10年余にわたって休みなくまき続けました。散布総量は約9万キロリットル、その中にダイオキシンが約550キログラム含まれていたと推計されています。枯れ葉剤を浴びたベトナム人や米兵、韓国兵などにその後、種々のガンをはじめとした疾病、先天性奇形児、流産、死産が多発し、ベトナム人の被害者は子どもや孫の世代も含め300万人以上に上るといわれています。戦争が終結して36年になりますが、枯れ葉剤の貯蔵や積み込みが行われたダナン空港など、今も残留ダイオキシンの高濃度汚染地域(ホットスポット)が28カ所あり、その周辺では世代を超えて障害児が生まれ、環境汚染も続いています。
ベトナム戦争時、沖縄は米軍の発進、補給基地として使われ、多くの軍事物資が沖縄を経由しました。このことから、沖縄においても枯れ葉剤が、貯蔵、運搬、散布されただろうという疑念は持たれてきました。事実、沖縄での枯れ葉剤被曝を主張し、1998年に賠償を認められた退役軍人が存在し、また2009年にはレッドハット作戦に枯れ葉剤が含まれていたことが退役軍人省の裁定の中で言及されています。空軍の1966年の報告書にも、枯れ葉剤を示している可能性がある除草剤の取り扱いに関する視察団の報沖の記述があります【参考資料1】。しかし、沖縄での枯れ葉剤の使用については、米政府は現在も認めていません。
退役軍人省の資料では、米国、プエルトリコ、カナダ、タイ、韓国(DMZ)、ラオス、カンボジアが、ベトナム以外の枯れ葉剤実験・貯蔵地域として挙げられています。また韓国では、米韓両政府によるキャンプ・キャロルにおける合同調査の中間報告で、「微量の枯れ葉剤を検出した」と今年9月9日に発表しています。それにも関わらず、沖縄での枯れ葉剤の存在や使用が認められないことは甚だ不自然です【添付資料1】。
日本政府は今回の一連の報道を受け、米国へ照会し、「枯れ葉剤が使用、貯蔵されたという資料や記録は見つかっていない」との回答を受け取っています。しかし、米国自体も新たな記録により、海軍、沿岸警備隊の枯れ葉剤被害者のリストが追加され、今なお調査が続いている状態です【参考資料2】。沖縄からも、ベトナムへ船で出動していた軍作業員の存在は確認されており、元基地従業員の被害の可能性もあると思われます【参考資料3】。米国で、沖縄での枯れ葉剤被害を主張する退役軍人を支援する動きもあることから【参考資料4】、沖縄での枯れ葉剤の使用、貯蔵に関しての新しい情報が今後も出てくる可能性は高いため、さらなる米国への照会を政府に求め続けることが必要だと考えます。
今年4月から始まった、退役軍人の証言に基づく沖縄の枯れ葉剤に関する一連のメディア報道によって、沖縄県民の疑念は益々高まってきています【参考資料5】。調査によれば、この枯れ葉剤に晒された地域は、那覇軍港から、北部訓練場までの広範囲に渡り、枯れ葉剤に晒された人々も、退役軍人だけでなく、沖縄の基地労働者や一般人にまで及び、次世代への影響も含め、全県的な被害を受けている可能性が高いことがうかがわれます【添付資料2】【添付資料3】。なによりも被害地域や、被害者の特定が急がれます。日本政府も韓国政府のような調査等や、国内外の専門家の招聘、聞き取りなどの取り組みを至急、行うべきです【参考資料6】。
また、調査体制の確立も必要だと考えられます。2002年に北谷のメイモスカラー射撃場返還跡地で215本の米軍所有物であると考えられたドラム缶が発見された時の検査体制は、十分なものではありませんでした。200以上のドラム缶が発見されたのにも関わらず、検体数がわずか1缶の分析検査であり、報告書はわずか3ページのものが公表されているに過ぎません【参考資料7】。また、当時は枯れ葉剤のことが念頭になかったため、調査項目にダイオキシンを分析する項目が入っていなかったことも、確認されています。旧ハンビー飛行場域への埋設に関する退役軍人の証言もあるため、その関係性の調査も必要と考えられます【添付資料4】。現在、不発弾などの処理も続く状況にあり、基地跡地等から発見されるものにいかに対処していくかは重要な問題です。現場で作業する人々をはじめとし、県民の健康に関わることであるため、主体的に調査をするとともに、沖縄県として、枯れ葉剤に関する分析を含めた調査体制を確立し、調査能力の向上を目指すことが必要であると考えられます。
現在、日米政府の対応に沖縄県民は不安と憤りを抱いています。また、各自治体の議会でも取り上げられているにも関わらず、沖縄県も主体的な取り組みをしていません。沖縄県は、沖縄県民の人権と健康を守る立場から、1973年の日米合同委員会合意「環境に関する協力について」に基づき、断固とした姿勢で事実の追及を行い、以下の事項を実現して下さいますよう陳情致します。
記
1. 日米政府に対して、退役軍人、元高官の証言などを検証し、沖縄における枯れ葉剤の輸送・運搬貯蔵、散布、廃棄、埋設などに関する具体的な照会、回答を求めること。その際、日本政府に、国防総省のみならず、退役軍人省等にも直接の照会、回答を求めることを要求すること。
2. 沖縄県に対して、次の(1)~(4)を求めること。
(1) 沖縄県として①-⑤の主体的な取り組みを早急に開始すること。
①退役兵や元高官の証言をもとに、沖縄側の証言を集める体制を作ること。
②枯れ葉剤の影響がある可能性の考えられる地域や周辺の環境調査(土壌、水質調査など)を専門家の助言を得ながら早急に実施し、その調査方法と調査結果を県民に明らかにすること。
③枯れ葉剤に晒された可能性のある人々やその子弟の健康調査(医療記録の分析など)に着手すること。
④市町村における実態調査の主体的な取り組みを支援すること。
⑤以上を継続的な県の事業とすること。
(2) 特に枯れ葉剤が埋設された可能性が高い北谷の件(旧ハンビー飛行場域)に関しては、退役軍人の証言に基づき迅速に情報収集を行い、北谷町との連携の上、緊急調査を行うこと。メイモスカラー射撃場で発見されたドラム缶との関連についても調査を行うこと。
(3) 沖縄県は、米軍基地の環境影響に関する独自の調査体制を確立すること。特に、米軍の投棄物が発見された場合の、検査基準・ガイドライン・検体保存基準などを策定し、枯れ葉剤の検証作業が速やかに行われるように体制を整えること。
(4) 枯れ葉剤を含む、環境汚染物質に関しては、沖縄県が現在策定している「生物多様性地域戦略」および日本政府の基地跡地利用法において、項目として盛り込み、法・制度を整備すること。
以上。
添付資料は以下のとおり
添付資料:
【添付資料1】地図:ベトナム戦争時に除草剤の使用、テスト、貯蔵があったと、米国防総省が認めたアジア・太平洋地域の諸国と地域(その他、ハワイ、米本国、プエルトリコ、カナダ)
http://www.publichealth.va.gov/docs/agentorange/dod_herbicides_outside_vietnam.pdfと、”VA Publishes Final Regulation to Aid Veterans Exposed to Agent Orange in Korea”
http://www.va.gov/opa/pressrel/pressrelease.cfm?id=2035より作成。
【添付資料2】県内の枯れ葉剤被害の可能性のある地域・人々のリスト
【添付資料3】枯れ葉剤に晒されたことに関係する疾病について(退役軍人省、Agent Orange: Diseases Related to Agent Orange Exposureの和訳)
http://www.publichealth.va.gov/exposures/agentorange/diseases.asp#veterans
【添付資料4】旧ハンビー飛行場域の枯れ葉剤埋設の疑いのある場所の地図
参考資料:
【参考資料1】
1)各文書は以下のとおり
①1998年の退役軍人省の裁定:
NR: 9800877 Decision Date: 01/13/98 Archive Date: 01/21/98 On appeal from the Department of Veterans Affairs Regional Office in San Diego, California THE ISSUE Entitlement to service connection for prostate cancer due to Agent Orange exposure
http://www.va.gov/vetapp98/files1/9800877.txt
退役軍人省のサン・ディエゴ地域事務所は、1961-1962年の沖縄での軍役の結果、前立腺ガンが、発症したという退役軍人の要求に対して補償を認める裁定をしている。これがもととなり、2007年7月9日の共同通信の報道と、県内2紙のトップ記事となった。
②2009年の退役軍人省の裁定:
Nr: 0941781 Decision Date: 11/03/09 Archive Date: 11/09/09
On appeal from the Department of Veterans Affairs Regional Office in Fort Harrison, Montana THE ISSUE Whether new and material evidence has been received to reopen a claim for service connection for diabetes mellitus.
http://www.va.gov/vetapp09/files5/0941781.txt
2009年のモンタナ、フォート・ハリソンの退役軍人省地域事務所の退役軍人への裁定。退役軍人の補償要求は却下されたが、この文書に言及されている、1971年に行われた、沖縄に貯蔵されていた毒ガスをアメリカのジョンストン島へ向けて移送する「レッドハット作戦」の関係文書が沖縄における枯れ葉剤貯蔵、処分を示している。
③空軍の1966年の報告書:
Department of the Air Force , Headquarters Pacific Air Forces APO San Francisco 96553, 8, September 1966
Reply to ATTN of: DCEMU, Report of Staff Visits, Philippines, Taiwan and Okinawa
http://www.jonmitchellinjapan.com/1966-air-force-visit-to-okinawa-herbicides.html
枯れ葉剤を示している可能性がある除草剤の取り扱いに関する視察団の訪沖の記述がある。
【参考資料2】
*3 “VA Adds To List Of Agent Orange-Exposed Ships” (2011.9.2, Navy Times).
http://www.navytimes.com/news/2011/09/military-agent-orange-exposure-ships-090211w/
和訳「退役軍人省、枯葉剤に晒された船のリストを追加」は以下に掲載。
http://okinawaoutreach.blogspot.com/2011/10/article-of-navy-times-va-adds-to-list.html
【参考資料3】
・福嶺博市「米軍用船に乗り組んで」『那覇史市』pp.101-104.
・「証言 遠い戦場、近い戦争—沖縄の人びと」『ベトナム戦争の記録』(大月書店、1988)
pp.202-205. (LT535号乗組員「ベトナム体験記」(『琉球新報』1969.5.4の手記に言及)
【参考資料4】
米国で、枯れ葉剤被害を訴える退役軍人を支援する法律事務所があり、沖縄の枯れ葉剤問題にも取り組んでいる。
Attig Law Firm
http://www.attiglawfirm.com/blog/va-benefits/va-disability-benefits-agent-orange-on-okinawa-during-the-vietnam-war/
【参考資料5】
1)ジョン・ミッチェル氏の記事は以下のとおり
・Evidence for Agent Orange on Okinawa, The Japan Times, Apr. 12 2011
・Agent Orange Stored and Used at Okinawa Bases, Asahi Shimbun, Aug. 9 2011
・Agent Orange Buried on Okinawa, Vet Says, The Japan Times, Aug. 13 2011
・Okinawa Vet Blames Cancer on Defoliant, The Japan Times, Aug. 24 2011
・US Military Defoliants on Okinawa, The Asia-Pacific Journal, Sep. 12 2011
・Pentagon Still Denies Agent Orange Stored on Okinawa, FPiF, Sep. 29 2011
・Agent Orange Revelations Raise Futenma Stakes, The Japan Times, Oct. 18 2011
・Agent Orange on Okinawa - New Evidence, The Asia-Pacific Journal, Nov. 25 2011
・Agent Orange Buried at Beach Strip?, The Japan Times, Nov. 30 2011
(いずれもジョン・ミッチェル氏のサイトからアクセス可
http://www.jonmitchellinjapan.com/agent-orange-on-okinawa.html)
2)沖縄タイムス・平安名純代特約記者による記事
元米高官証言「沖縄で枯れ葉剤散布」(沖縄タイムス 2011年9月6日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-09-06_23051/
枯れ葉剤散布後の機体「嘉手納で洗浄」(沖縄タイムス 2011年11月6日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-11-06_25658/
【参考資料6】
日韓で際立つ対応差 米軍施設枯れ葉剤問題(琉球新報2011年9月20日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-181866-storytopic-9.html
【参考資料7】
・「(3)北谷町のドラム缶投棄事件」(『沖縄の米軍基地 平成20年3月』p.58. )
・「タール状物質等の分析結果の最終報告について」沖縄県文化環境部
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【添付資料2】県内の枯れ葉剤被害の可能性のある地域・人々のリスト
(PDF: 122KB)
【添付資料3】枯れ葉剤に晒されたことに関係する疾病について
(PDF: 210KB)
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