防衛局交渉より:政府の「保全措置」は問題だらけ2

沖縄BD

2016年02月28日 13:35

去った1月25日にジュゴン保護キャンペーンセンターが行った沖縄防衛局との要請交渉の報告の第2回目です。私はSDCCのメンバーでもあるので要請交渉に参加しました(SDCCのブログ記事はこちらから)。

前回はジュゴンの保全措置としての「海草藻場の移植」の問題について書きました。今回は「ジュゴン監視・警告システム」についてです。

「ジュゴン監視・警戒システム」
沖縄防衛局がジュゴンの保全措置として推進してきたものに「ジュゴン監視・警戒システム」があります。このシステムは、環境アセスの段階でも提示され、2015年6月に行われた第5回環境監視等委員会でも議論がなされています(第5回委員会の議事録はこちらから)。

第5回委員会の配布資料「ジュゴンに関する保全措置 ジュゴン監視・警戒システムの監視計画(案)」(その資料はこちらから。)の図が示すように、システムは、1) 工事海域の監視・警告、2) 生息域・移動域での監視・警告、3) データ解析センターの3つのサブシステムから構成されています。


           ジュゴン監視・警戒システム基本構成図

具体的な監視の手法としては1) 曳船式ハイドロホン(ジュゴンの鳴声を検出し、ジュゴンやその位置を確認する)2) 「スキャニングソナー」(魚群探知機のようなものでジュゴンの位置を確認)、3)目視による監視(陸上、海上(船)、空中(ヘリコプター)からジュゴンを確認)、4)そして各海域に設置した水中録音機(ジュゴンの鳴声による確認)から成り立っています。そしてのシステムは、辺野古・大浦湾だけではなく、沖縄本島東北部の沿岸を対象にしたジュゴンの保全措置となっています。

しかし、多くの作業船を出し、埋め立て工事を行うこと自体、ジュゴンを大浦湾・辺野古へ寄せつけなくするものだと容易に予測できます。また沖縄防衛局のアセスでは、ジュゴンは辺野古や大浦湾の利用は限られている、と結論づけています。その2点を考えただけでも、この大掛かりな「ジュゴン監視・警戒システム」自体が、なんかポーズのような、沖縄の方言で言えば「保全措置ふーなー」という感じは拭えません。

その点も踏まえて、今回の要請交渉で私たちが防衛局に追求したのは、このシステムがきちんと機能するのか、ということでした。特に沖縄防衛局が鳴りもの入りで進めてきたジュゴンの鳴声を探知するハイドロホンの有効性について質問をしました。


            タイで検証試験に使われた監視装置の主要部分


ハイドロホンは辺野古・大浦湾で使える? 防衛局の回答とNGOの質問
要請交渉において沖縄防衛局の職員は、1) ジュゴンの鳴音を探知し、ジュゴンの存在を確認できるハイドロホンのシステムはすでに確立され、2)それは多くの作業船が行き来するなかでも使えるものである、との認識を示しました。つまり、埋め立てや基地建設工事の騒音の中でも機能するという認識でした。そしてその根拠として、タイにおいての検証試験に言及しました。その検証試験については、第5回環境監視等委員会で配布された資料で読む事ができます(その資料はこちらから)。

その認識に対して私たちは、1) ハイドロホンの検証試験が行われてきたタイ、トラン県タリボン島と、工事が行われる辺野古・大浦湾の状況は大きく異なる、2) それゆえ、タイでの検証試験をもって、このシステムが辺野古・大浦湾においても適用できるとするのは問題である、と主張しました。そして3)防衛局の認識を支持することのできる、防衛局の資料以外の報告書や学術論文等を示して欲しいと要求しました。

要請交渉に対応してくれた沖縄防衛局の職員は音響システムや「保全措置」の専門家ではありません。それゆえ職員がその場で科学的論文やデータを示すことはできませんでした。まあそれは仕方ないと思います。しかし自らの基地建設強行の妥当性や「保全措置」の有効性だけを強調し、「ジュゴン監視・警告システム」の実状や課題を説明しないというのは問題です。後で書きますが、出来ていない「保全措置」も出来ているとするのは、どこかでボロがでてくるのは必至であり、それは誰が責任をとるか、という問題になります。

タイの検証試験から見えてくること
ここで沖縄防衛局が「ジュゴン監視・警告システム」の有効性の根拠として示したタイ、トラン県タリボン島の沿岸でのハイドロホンやジュゴン監視・警戒システムの検証試験について少し詳しく触れておきたいと思います。

タイにおけるジュゴンの研究や検証試験は、京都大学の研究チームが中心となり行ってきました。ジュゴンの鳴声の分析を通して、ジュゴンの行動のより詳細な理解や、鳴声探知の技術を使ったジュゴンの保全のシステムの開発に成果をあげていると思います。(報告書の例はこちらから。)

しかし私たちとしては、このハドロホンのシステムを含む「ジュゴンの監視・警告システム」が辺野古・大浦湾での基地建設工事に応用された場合、保全措置として効果があげられるのかはまだ分からない、それゆえそれを「保全措置」として位置づけるのは問題である、と考えます。

実際、第5回環境監視等委員会の議事録のなかに、私たちの考えを支持する委員と事務局のやり取りがあります。




この議事録でのやり取りからは、決して、このハイドロホンがきちんと辺野古・大浦湾の工事に応用できるとは読めないはずです。タリボン島と沖縄ではジュゴンの頭数も違う。往来する船の種類や数も違う。さらには、このシステムの確立には、ジュゴンの鳴音を聞き分ける人の養成が必要だ。としか読めないはずです。

それなのに沖縄防衛局の職員は、埋め立てや基地建設工事の騒音の中でも有効であるという認識を示した。環境監視等委員会の議論と実際に建設工事や保全措置を行う沖縄防衛局の認識の乖離。この乖離をもったまま基地建設を強行されては、取り返しのつかない環境破壊へと繋がっていくことになります。

このような乖離については、沖縄県も、私たち市民もしっかり指摘して、沖縄防衛局に適切な対応を求めなければなりません。そしてなによりも、環境監視等委員会が、そのような乖離についてしっかりと反論していくべきことが必要であるでしょう。そして環境監視等委員会がきちんと機能できように、沖縄県や私たち市民が同委員会に注視していくことも必要でしょう。






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