沖縄県の実施する「周辺環境調査」の問題:これはレポートではない

2015年05月01日/ 沖縄市サッカー場/ 枯れ葉剤/ 基地返還跡地/ 汚染/ 沖縄県環境政策/ 沖縄防衛局

 沖縄市サッカー場の調査では、ドラム缶の高濃度のダイオキシン汚染が発覚したため、ドラム缶の付着物の調査内容や、その調査を実施する沖縄防衛局に目が向けられがちです。
 そのため、沖縄県が周辺環境調査という名前で嘉手納基地内の井戸水や、暗渠排水などの水の調査を実施していることは、あまり着目されていません。
 
 しかし、専門家からは、沖縄市サッカー場周辺環境調査という名前で実施されている沖縄県の調査にも以前から、問題が指摘されています。
    
 今回の記事では、その専門家の意見をもとに、調査自体だけでなく、調査の報告の仕方にも射程を拡げ、沖縄県の調査への姿勢という本質的な問題も記しておきたいと思います。

沖縄県の実施する「周辺環境調査」の問題:これはレポートではない



 現在の沖縄県の周辺環境調査調査結果は以下のとおりです。2013年6月25日からの調査が掲載されています。昨年度から、時系列でまとめて掲載するようになったことは評価できるとおもいます。
沖縄県環境保全課HP 「沖縄市サッカー場周辺環境調査の結果について(お知らせ)」

 1.平成27年2月18日、20日実施分
   調査地点:大道川河口底質、嘉手納基地内井戸水
   調査結果:別表のとおり(PDF:106KB)

2.平成27年2月20日実施分
  調査地点:嘉手納基地内井戸水
  調査結果:別表のとおり(PDF:514KB)

3.平成26年7月9日実施分
  調査地点:サッカー場暗きょ排水からの排出水
  調査結果:別表のとおり(PDF:117KB)

4.平成26年3月13日実施分
  調査地点:サッカー場暗きょ排水からの排出水
  調査結果:別表のとおり(PDF:464KB)

5.平成26年2月5日、7日及び19日実施分
  調査地点:サッカー場暗きょ排水からの排出水、嘉手納基地内井戸水、大道川河口底質
  調査結果:別表のとおり(PDF:568KB)

6.平成25年10月23日実施分
  調査地点:サッカー場暗きょ排水からの排出水
  調査結果:別表のとおり(PDF:569KB)

7.平成25年6月25日実施分
  調査地点:サッカー場周辺運動公園、嘉手納基地内井戸水、大道川河口底質
  調査結果:別表のとおり(PDF:1,424KB)
 

沖縄県の調査については、これまで、池田こみちさん(『嘉手納基地返還跡地(沖縄市サッカー場)ドラム缶発掘追加調査に関する意見書』、意見書の記事はこちらのpp.25ー28)と國吉信義さんから意見をいただいていますので、整理してみました。

総じて「おざなり」「お粗末」な調査
 まず、沖縄県の周辺環境調査の全体としての評価は厳しいものになっています。池田さんは「総じて沖縄県の周辺環境調査は、極めておざなりなものであり、地域住民に安心材料を与えるには不十分と言わざるを得ない。」(意見書p28)、國吉さんも「沖縄県は独自に地下水や排水の水質調査をしたとあるが、その調査はお粗末である」(筆者へのメールでのコメント)と、2人の専門家に調査の質の低さが指摘されています(太字は引用者)。

調査内容の問題点
 調査の内容について、池田さんは、問題点を以下のように、指摘しています。調査地点についてはポイントが少ないことを指摘し、実施時期、頻度についてもそれが果たして適当なものであるか、疑問を投げかけています。
”(5)沖縄県の調査の問題点
以上、沖縄県による周辺環境調査結果を概括した結果、次のような課題が浮かび上がった。
(ア) 調査地点について
今回の調査では、周辺環境調査といいながら、地下水は運動公園内が2カ所、嘉手納基地内が2カ所と極めて調査ポイントが少ない。その理由について沖縄県環境部環境保全課水環境・赤土対策班に確認したところ、地下水については、調査のための観測井戸を設置した訳ではなく、既存の井戸あるいは湧き水のあるところから採取したため、地点が限られたとのことだった。周辺環境調査として十分な調査地点数であったかどうか課題が残る。
(イ) 調査実施時期について
調査実施時期については、ドラム缶の掘削前と掘削後に行いその変化を見るのが調査の目的からして妥当な方法であると思われるが、今回の試料採取の時期は必ずしもドラム缶掘削作業の進捗と対応したものではなく、作業による影響を把握するという目的からして適当かどうかという問題がある。なぜその日を試料採取日として選定したかについての説明がないのは問題である。
(ウ) 調査頻度について
地下水の測定について、運動公園が1回だけとなっている理由を確認したところ、結果が問題なかったからとの回答であったが、地下水は季節によってまた気象によっても変動を受けるため、1回の調査で問題がなかったからとして調査を終えるのは、今回の調査の目的からして妥当ではない。”(pp.27-28)(太字は池田さんによるもの)

國吉さんも、「調査の目的、方法、サンプル地点、結果の比較分析、結論など不十分である。」と述べていました(筆者へのコメント)。

不十分な解析
調査結果の解析についても、池田さんは問題を指摘しています。

1).暗渠排水の調査結果からの踏み込んだ解析が必要
 排水口で、サッカー場という場所としてはダイオキシン類が高い値を示したこと、沖縄防衛局のたまり水の調査でも明らかになった掘削工事の排 水への影響などについて、池田さんは、より踏み込んだ解析が必要であったという指摘をしています。

(エ) サッカー場の暗渠排水の調査について
東西2カ所の排水を調査しているが、西側が4回、東側が2回の調査となった理由が説明されていない。
サッカー場暗渠排水(西側)の調査で、3回目の調査の際に、ダイオキシン類の濃度が3.9pg-TEQ/Lと前2回の調査結果(0.26pg-TEQ/Lと0.95pg-TEQ/L)から大幅に上昇している。排水基準(10pg-TEQ/L)はクリアしているが、サッカー場は、いわゆるダイオキシン類の排水基準が適用されるような施設ではないため、3.9pg-TEQ/Lや3.1pg-TEQ/Lといった高い値が検出されたことに対する解析評価が行われなければならない。ドラム缶付着物やドラム缶底面土壌からは、高濃度のダイオキシンが検出されていることから、掘削作業に伴ってその影響が暗渠排水にも及んだ可能性もあることから、より踏み込んだ解析が必要であったと思われる。
暗渠排水の配水管の敷設状況やネットワークなどを確認し、ダイオキシン類の分析結果と併せて解析する必要があったのではないか。また、ドラム缶掘削場所との位置関係なども明らかにする必要がある。(p.28)

 この件は、沖縄防衛局のたまり水の報告書で報告されていることと関係があります(ブログ記事:「沖縄市サッカー場:ドラム缶たまり水専門家意見2)池田こみち①排水口のダイオキシン」参照)。沖縄防衛局は、沖縄県のデータを用い、掘削の影響が排水に及んでいることを認めています。また、たまり水と排水のダイオキシン類の関係はないことと、排水でのダイオキシン類の値は環境基準値以下であることで幕引きをしようとしています。
 沖縄県のデータを用いた沖縄防衛局のこの評価が妥当であるかどうかについて、沖縄県は踏み込んだ解析を行い、自らの見解を示すべきだと思います。

2)調査全体を通じての解析がない
 これは、1)で指摘されていることと重なりますが、沖縄県は、調査1回ごとには、一応の評価はしていても、それをつなぎあわせ、総合的にみる評価はしていません(池田さんには、「これらは、いずれも調査ごとの解析・評価であり、調査全体を通じての解析は行われていない。」と指摘されています)。
 1)を解決することにより、2)の問題に部分的に応えることになります。定点観測の意味は1回ごとの評価だけではなく、時間的経過の中でそれを分析することです。調査全体の、科学的裏付けのある解析が必要であるにも関わらず、それがされていないということです。

調査の報告・記述の方法の問題
 沖縄県の調査・報告はそれを市民に伝える方法にも問題があります。これは往々にして、調査設計の問題であることもあります。

 國吉信義さんは、この沖縄県の調査報告をみて、「これはニュースリリースに過ぎず、レポートになっていない。」とおっしゃっていました。
 調査は、科学的な手法で実施されるべきもので、それがわかるように報告されなければならないものです。

 調査を報告するならば、まず、その調査の目的、その目的を達するための調査手段、調査の場所、手順などを、それについてのそれぞれの必然性(なぜこの方法なのか、なぜこの調査場所を設定したのか)とともに、説明する必要があります。そして、実施過程の記述、結論、考察、考察に至る学術的知見は何か、などを明確に示す必要があります。それが科学的レポートの基本要件です。
 
 國吉さんは、前回紹介したコメントで、「まず、運動公園内の地下水採取の場所、ドラム缶発掘場所との位置関係、井戸から採取したのか、井戸の深さや水位、井戸のスクリーンの位置、過去にも採取して調べたのか、など知りたいです。」とコメントされています。科学的なレポートであればそれがわかりやすく書いてあるはずのものです。

 先述の池田さんの指摘の中でも、池田さんが不明な点を沖縄県に問い合わせていることがわかりますが、それは問い合わせなくても書かれていて然るべきものです。

 考察についても、記述が不完全です。暗渠排水のpH値が10を上回る強度なアルカリ性を示し、排水基準(5.8~8.6)の範囲外であった原因についての考察「人工芝の張り替え工事に伴い、グランドに再生クラッシャーRC(再生路盤材)を使用したことからその影響によるものと考えられる」は、どのような可能性があるかの言及もなく、考察の裏付けとなる科学的知見も示されていません。

 これは「レポート」にはなっていない、という國吉さんのコメントが意味していることは、このようなことで理解できると思います。
 
 また、市民が理解できるようにわかりやすい報告にすることも大切です。米国では、難しい内容を市民向けにわかりやすく書くライターを雇って報告書をつくっています。沖縄防衛局の報告書にも要求すべきことですのでこの部分は、稿を改めることとしたいと思います。

 ところで沖縄県は、サッカー場の件から基地特別対策室を設立し(一括交付金事業の3年計画)、外国でたくさん資料を集めているようです。そこではこのような市民への質の高い報告書も収集されていることでしょう。
 対策室で蓄えている知識は、すぐに現場に反映してもらいたいと思います。
 
 米国では、汚染や浄化に関わる調査や資料をだれでもアクセスできるようにしています。私たちもそのようなものを参考にし、海外の人にも聞きながら文書を読んだりしています。
 こちら↓は、Fort Ordという元陸軍施設の浄化プロセスで市民向けに作られた地下水についての資料です。「地下水」とはなにか、の定義から説明されており、地下水の概念図もビジュアルに示されています。
 将来、防衛局へ提示するガイドラインやカルテも必要ですが、今行っている調査で、市民に向けてどう、科学的知見に根ざした説得力のある生きた調査、報告ができるかということを、沖縄県は考えてもらいたいと思います。県民が期待しているのはその部分です。

沖縄県の実施する「周辺環境調査」の問題:これはレポートではない
 沖縄県の実施する「周辺環境調査」の問題:これはレポートではない
こちらのPDFでみることができます。
http://docs.fortordcleanup.com/ar_pdfs/factsheets/03-09/FINAL%20FS-03-09%20FINAL%20Fact%20Sheet%20Fort%20Ord%20GW%20Overview%20v3FEB15.pdf



同じカテゴリー(沖縄市サッカー場)の記事

Posted by 沖縄BD at 23:43│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。