枯葉剤:外務省への要請文の説明

2011年10月23日/ 枯れ葉剤

10月7日に外務省(沖縄事務所)に提出した「沖縄における枯れ葉剤汚染の真相解明と経緯説明の要請」について、関連資料と若干の説明をつけておきます。

[枯葉剤の被害]
ベトナム戦争において米軍は、猛毒ダイオキシンを含む化学兵器・枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)を1961~71年の10年余にわたって休みなくまき続けた。散布総量は約9万キロリットル、その中にダイオキシンが約550キログラム含まれていたと推計されている。枯れ葉剤を浴びたベトナム人や米兵、韓国兵などにその後、種々のガンをはじめとした疾病、先天性奇形児、流産、死産が多発し、ベトナム人の被害者は子どもや孫の世代も含め300万人以上に上るといわれる。戦争が終結して36年になるが、枯れ葉剤の貯蔵や積み込みが行われたダナン空港など、今も残留ダイオキシンの高濃度汚染地域(ホットスポット)が28カ所あり、その周辺では世代を超えて障害児が生まれ、環境汚染も続いている。


枯れ葉剤の被害については、ベトナム青葉奨学会沖縄委員会が2008年にブックレット『枯葉剤を考える~ベトナムで 沖縄で 何が行われたのか』を作成しています。

[退役軍人省の文書]
 
ベトナム戦争時、沖縄は米軍の発進、補給基地として使われ、多くの軍事物資が沖縄を経由した。このことから、沖縄においても枯れ葉剤が、貯蔵、運搬、散布されただろうという疑念は持たれてきた。事実、沖縄での枯れ葉剤による被害を主張し、1998年に賠償を認められた退役軍人が存在し、また2009年にはレッドハット作戦に枯れ葉剤が含まれていたことが退役軍人省の裁定の中で言及された。しかし、沖縄での枯れ葉剤の使用については、米政府は現在も認めていない。


 この部分は重要な部分です。私たちが「退役軍人省の資料は読んだのか」「国防総省だけでなく、退役軍人省に照会せよ」といっているのは、退役軍人省が、沖縄での枯れ葉剤の存在を認めている、以下の資料があるからです。
1)1998年の退役軍人省の裁定:沖縄の枯れ葉剤被害で、賠償を認められた退役軍人の存在を示している
NR: 9800877 Decision Date: 01/13/98 Archive Date: 01/21/98 On appeal from the Department of Veterans Affairs Regional Office in San Diego, California THE ISSUE Entitlement to service connection for prostate cancer due to Agent Orange exposure
退役軍人省のサン・ディエゴ地域事務所は、1961-1962年の沖縄での軍役の結果、前立腺ガンが、発症したという退役軍人の要求に対して補償を認める裁定をしています。これがもととなり、2007年7月9日の共同通信の報道と、県内2紙のトップ記事となりました。
2)2009年の退役軍人省の裁定:レッドハット作戦関係文書で沖縄の枯れ葉剤の貯蔵等が示されていることが言及されている
Nr: 0941781 Decision Date: 11/03/09 Archive Date: 11/09/09
On appeal from the Department of Veterans Affairs Regional Office in Fort Harrison, Montana THE ISSUE Whether new and material evidence has been received to reopen a claim for service connection for diabetes mellitus.

2009年のモンタナ、フォート・ハリソンの退役軍人省地域事務所の退役軍人への裁定。退役軍人の補償要求は却下されましたが、この文書に言及されている、1971年に行われた、沖縄に貯蔵されていた毒ガスをアメリカのジョンストン島へ向けて移送する「レッドハット作戦」の関係文書が沖縄における枯れ葉剤貯蔵、処分を示しています。

*レッドハット作戦については
こちらの動画「Operation Red Hat : Men and a Mission」を参照。
また、県立公文書館の毒ガス移送始まるも参照してください。

[沖縄が枯れ葉剤使用地域として認められていない不自然さ]
 
退役軍人省の資料では、米国、プエルトリコ、カナダ、タイ、韓国(DMZ)、ラオス、カンボジアが、ベトナム以外の枯れ葉剤実験・貯蔵地域として挙げられている。また韓国では、米韓両政府によるキャンプ・キャロルにおける合同調査の中間報告で、「微量の枯れ葉剤を検出した」と今年9月9日に発表している。それにも関わらず、沖縄での枯れ葉剤の存在や使用が認められないことは甚だ不自然である(*1)。


 ここでは、前の記事の 「【資料1】地図:ベトナム戦争時に除草剤の使用、テスト、貯蔵があったと、米国防総省が認めたアジア・太平洋地域の諸国と地域(その他、ハワイ、米本国、プエルトリコ、カナダ)」に示したように、ベトナム戦争にこれだけ関与していた沖縄だけ、枯れ葉剤の使用が認められていない、というのはあまりにも不自然であることを主張しました。
枯れ葉剤使用が認められた地域については以下の資料を参照:
Information from Department of Defense (DoD) on Herbicide Tests and Storage outside of Vietnam
”VA Publishes Final Regulation to Aid Veterans Exposed to Agent Orange in Korea”

[全県的な被害の可能性/韓国との対応の比較]
今年4月から始まった、退役軍人の証言に基づく沖縄の枯れ葉剤に関する一連のメディア報道によって、沖縄県民の疑念は益々高まってきている。調査によれば、この枯れ葉剤に晒された地域は、那覇軍港から、北部訓練場までの広範囲に渡り、枯れ葉剤に晒された人々も、退役軍人だけでなく、沖縄の基地労働者や一般人にまで及び、全県的な被害を受けている可能性が高い(*2)。なによりも被害地域や、被害者の特定が急がれる。日本政府も韓国政府が米国と行っているような合同調査を、至急、沖縄で米国と行うべきである。


前の記事の 「【資料2】県内の枯れ葉剤被害の可能性のある地域・人々のリスト」は、ジョン・ミッチェルのジャパン・フォーカスの記事を中心に、沖縄の枯れ葉剤に晒された地域をリストアップしました。退役軍人だけでなく、全県的に沖縄の人々が被害を受けている可能性が高いことがわかります。ましてや、北部訓練場で使用されているのならば、県民の水がめが汚染されている可能性も高いのですから。
 また、韓国では、今年5月、キャンプ・キャロルで枯葉剤を埋め立てたとする退役軍人の証言があってから、ただちに米韓合同調査団を設置し、日本との対応の差は際だっています。
 琉球新報記事 「日韓で際立つ対応差 米軍施設枯れ葉剤問題」(2011.9.20)

枯葉剤:外務省への要請文の説明

上記記事より

  韓国ではキャンプ・キャロル近辺の村の健康調査を韓国の環境省が行っています。
South Korea launches health probe for villages near Camp Carroll (Stars and Stripes, September 1, 2011)

韓国の枯れ葉剤についてはAgent Orange in Korea By Christine Ahn and Gwyn Kirk(Foreign Policy in Focus, July 7, 2011) を参照。

[米国の枯れ葉剤被害者もまだリストは拡大]
 
日本政府は今回の一連の報道を受け、米国へ照会し、「枯れ葉剤が使用、貯蔵されたという資料や記録は見つかっていない」との回答を受け取っている。しかし、米国自体も新たな記録により、海軍、沿岸警備隊の枯れ葉剤被害者のリストが追加され、今なお調査が続いている状態であり(*3)、使用、貯蔵に関しての事実の断定はまだできないはずである。


 これについては、参考資料3として挙げてある、“VA Adds To List Of Agent Orange-Exposed Ships” (2011.9.2, Navy Times).「退役軍人省、枯葉剤に晒された船のリストを追加」(ネイビー・タイムス、2011.9.2)を参照。和訳はOkinawa Outreachのこちらに挙げてあります。

 
このような事態に、沖縄県民は不安と憤りを抱いており、各自治体の議会でも取り上げられている。日本政府は、沖縄県民の人権と健康を守る立場から、1973年の日米合同委員会合意「環境に関する協力について」に基づき、断固とした姿勢で事実の追及を行い、以下の要請を早急に実行することを強く求める。


各自治体などの動きについては、別記事でまとめます。
要請の根拠となる1973年の日米合同委員会合意「環境に関する協力について」はこちら
原文(英文)Cooperation Concerning Environmental Matters はこちらです。
 故宇井純先生は、「米軍基地と環境問題--沖縄の現況」『軍縮問題資料』 ((271), 18-25, 2003-05) で、この合意と枯葉剤について言及しています。英訳記事はこちらで読めます。
U.S. Military Bases and Environmental Problems by Ui Jun (The Asia-Pacific Journal: Japan Focus).

以下が要請です。
                    
 要請

1. 日本政府は8月19日の米国からの回答を鵜呑みにすることなく、枯れ葉剤の貯蔵、運搬、散布、埋設に関する元米兵及び散布の立案に関わった陸軍高官の証言などの、詳細な検証を米国に要求し、その結果を早急に県民に明らかにすること。


外務省が行わなければならないことは、まずこのことでしょう。退役軍人省も含め、米国政府に詳細な検証を求め、その結果を県民に明らかにするべきです。これは県民の健康を守る意味からも、公開の義務があるでしょう。
陸軍高官の証言は、元米高官証言「沖縄で枯れ葉剤散布」(『沖縄タイムス』2011年9月16日)を参照。

2. 県内で枯れ葉剤の影響がある可能性の考えられる地域や周辺の環境調査(土壌、水質調査など)を早急に実施し、その調査方法と調査結果を県民に明らかにすること。および、枯れ葉剤に晒された可能性のある人々の健康調査(医療記録の分析など)に着手すること。


これも上に同じ。米国政府の回答を待たずとも、早急に着手すべき。

3. 沖縄県、および各自治体が行う健康調査や環境調査を支援する体制をつくること。


沖縄BDは県への要請行動で、調査を要請しますが、調査を実行するにあたっての支援を日本政府に求めました。

4.沖縄の枯れ葉剤に関して、復帰前からこれまで、日本政府は米国に対してどのような問い合わせをしてきたのか、そして米国からどのような回答を得たのか、その詳細を時系列で、沖縄県民に提示し説明すること。


これも私たちはきちんと説明してもらう必要があります。これまでするべきことでしていないことは、今後要求していかなければなりません。






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Posted by 沖縄BD at 02:45│Comments(0)
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